Asimov と ASIMO
アイザック・アシモフ(Isaac Asimov)の名前は知らなくても、ホンダが開発した2足歩行ロボットの名前 ASIMO を知る人は多いはずだ。
ホンダによれば、ASIMOは、「Advanced Step in Innovative Mobility」の頭文字を取って名付けられたというが、もちろん、はじめにAsimovの名前ありきであることに間違いはないだろう。
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SFというジャンルにおけるアシモフ最大の貢献として、ロボットについて一定の行動原理を提示したことが挙げられることが多い。これは「ロボット工学の三原則」(Three Laws of Robotics)として知られ、現在主要な大規模辞書の見出し項目にも挙げられているものだ。二足歩行ロボットの開発者がアシモフに敬意を表するのも当然の話なのである。
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アシモフがロボットをテーマに執筆した作品は、多かれ少なかれ、この三原則をベースにしている。特に、初期の作品にそれが顕著で、まずロボットが三原則から逸脱したかのような行動をとる。それはあたかも不可能犯罪が行われたとしか思えない状況である。だが、結局それらは、実は三原則が守られたうえでの論理的帰結であることが理路整然と解き明かされる。つまり、一種の謎解きミステリ的な魅力を備えているのである。これら初期作品は『われはロボット』(I, Robot)に収録されている。
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実際、水と油に思われたSFとミステリをひとつに融合させたことを、アシモフのもうひとつの功績とする人も多い。彼の『鋼鉄都市』、『はだかの太陽』では、ロボット嫌いの人間の刑事と、外見は人間そっくりのロボット刑事のコンビが、ロボット絡みの難事件を解決していく。
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「アイ、ロボット」(2004年)が製作されると聞いたとき、あの短編連作をどう映画化するのか不思議でならなかったのだが、ロボット嫌いの刑事をウィル・スミスが演じると聞いて、じゃあ、『鋼鉄都市』か『はだかの太陽』が原作か、と思ったものだ。
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実際に観てみると、映画版「アイ、ロボット」は、短編集『われはロボット』のあちこちからいろいろな断片を拾ってきて、それを刑事もののアクション映画に仕立て上げたもので、アシモフの持ち味とはかけはなれたものになってしまった。まあ、ハリウッド的には正解なのだろうが。
実は、大昔に、『鋼鉄都市』が映画化されるかもしれないという噂が駆け巡ったことがある。その時は、ジャック・レモンが主演するという話だったのだが、結局沙汰やみになってしまったらしい。残念なことである
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「アンドリューNDR114」(1999年) については、余計なことは言うまい。クリス・コロンバス監督、ロビン・ウィリアムズ主演というところからも想像がつくように、「アイ,ロボット」とはうって変わって、実にほのぼのとしたファミリー映画だ。こちらもアシモフ本来のテイストとは異なるのだが、それはやむをえないところだろう。
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2002年2月14日、ニューヨーク証券取引所(NYSE)への上場25周年とASIMOの合衆国デビューを記念して、ホンダのCEOとASIMOが取引所の開場を知らせるベルを鳴らすセレモニーが行われたらしい。このとき、アシモフはすでに故人(1992年没)となっていたのだが、存命ならきっと招かれて、気の利いたジョークで場内を沸かせていたに違いない。その日、自身もSF作家で、夫亡きあと彼の後を引き継いで「ロサンゼルス・タイムス」紙の科学コラムを執筆していた未亡人(ジャネット・アシモフ)は臨席していたのだろうか。