マクナマラという人物 | DVD放浪記

マクナマラという人物



「泣く子も黙るマクナマラ」なんて言葉があったかどうかは知らないが、ロバート・S・マクナマラは、フォード社の社長を経て、ケネディ、ジョンソン両大統領のもとで国防長官を務め、その後は世界銀行総裁として活躍したエリート中のエリートである。

だが、その人生は大きな成功とともに大きな挫折に彩られている。ケネディ大統領のもとでは「キューバ危機」を見事に乗り切りながら、続くジョンソン大統領のもとでは、ベトナム戦争の泥沼に足をとられ失意のうちに政権を去った彼が、回顧録を著した際、大きな反響があったのも当然だろう。


ロバート・マクナマラ, 仲 晃
マクナマラ回顧録 ベトナムの悲劇と教訓


これは、デヴィッド・ハルバースタムの『ベスト&ブライテスト』と併せて読みたい本だ。


デイヴィッド ハルバースタム, David Halberstam, 浅野 輔
ベスト&ブライテスト〈上〉栄光と興奮に憑かれて


マクナマラは、自身がかつて当事者でもあったキューバ危機、ベトナム戦争などの「歴史的事件」と向き合い、これを検証するため、カストロ議長、北ベトナムの指導者ら当時の関係者との会合を重ねてきたが(この模様はテレビで放映されていた)、この姿勢は立派といっていいだろう。

そのマクナラマへのインタビュー映画が製作されている。「フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白」(2003年)である。これは、アメリカの政治・外交・軍事に興味ある方には必見の映画だろう。

彼が自分の生涯を振り返りながら吐露するコメントの数々には、驚くほど率直な反省も多い(第二次世界大戦の末期に、彼はカーティス・ルメイのもとで、東京大空襲のプランを策定している。このあたりについての述懐は、とりわけ日本人には複雑な思いで受け止められるだろう)。

もちろん、アメリカ人としての枠組みに縛られているという限界も見受けられるし、これらを身勝手な贖罪としてしりぞけることは簡単だろう。だが、この年齢になって、かつての自らを省みることは、やはり、そうそう誰にでもできることではないはすだ。


ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白


マイケル・ムーア監督の「ボウリング・フォー・コロンバイン」(2002年)がアカデミー賞ドキュメンタリー長編賞を受賞した翌年、この「フォッグ・オブ・ウォー」も同賞を受賞している。

早々と廉価版が出たのだが、その後店頭ではあまり見かけない。DVDに英語字幕がないこととあわせて実に残念なことではある。

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フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元国防長官の告白
The Fog of War

2003年 カラー 106分

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◆スタッフ
監督:エロール・モリス
製作:エロール・モリス他
撮影:ロバート・チャペル/ピーター・ドナヒュー

音楽:フィリップ・グラス

◆出演
ロバート・マクナマラ
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