昨日、お客さん先に伺うと電気が消えていた。


「ごめんください~!」と言うと、お婆さんが出てきた。
いつもはそのお婆さんの娘さんが(とはいえ僕の母程の年)、基本は一人で切り盛りしている。

「今日◯◯さんは…」

『あぁ。実は子宮筋腫が見つかってねぇ。月末まで手術するから入院する予定なのよ』

とケロリと言われた。
僕が心配そうに伺っていたら
『そんなに心配したって、専門家の方に任せるしかないでしょ?オマカセオマカセ♪』

久しぶりに、ここまで前向きでパワーに溢れる人に出会った。


促され、椅子に座るや

『私な、アンタがいっつも来て娘と話しとるのを見てな、ずーっと話したかったんよ~♪』
と、口火を切ってから1時間半お話させて頂いた。

実家が大きな商売(酒問屋や海産問屋など)をやっていたこと。
父親が連帯保証人にいくつもなっていて、学生時代に家財一式を差し押さえられたこと。
長女である自分が6人の兄妹を養うために、早くから働きに出ていたこと。
26で嫁入りして、新婚旅行から帰ってきたら、旦那の父が連帯保証人になっていた人が逃げていて、嫁入り道具のタンスを一度も開けることなく差し押さえられたこと。
妊婦の重いお腹で支払いを延ばしてもらうように嘆願に回ったこと。


沢山苦労の話しを聞いた。

しかし、お婆ちゃんは一言。
『今まで生きてきて苦労しかなかったけど、アタシは人に恵まれているから良いのよ。人は自分の鏡。一生懸命誰かに尽くせば、人も一生懸命尽くしてくれる。それが楽しくて、アタシ80まで生きてきたのよ♪』

とても素晴らしい勉強をさせて頂いた。
多少の不景気くらいで下を向いてはいられない。強く生きなければ。


次の予定が近づき、「それじゃ、そろそろオイトマさせて頂きますね~。」と切りだすと、

『アタシ、あなたのファンになったわ~。あと60若かったら、今から市役所で婚姻届出してもいいわ~、色白だし、可愛いからあなた大好きっ!』とのありがたいお言葉。
「そうですね!おばちゃんみたいな素敵な人だったら、是非お付き合いしたいなぁ~」
『あら!嬉しいっ!あなた今度いつ来るの!?あたし、特製のカシワご飯(鶏飯)作ってあげるわ♪』

ボクには80歳の彼女ができた。
ちなみに、得意料理は栗羊羹や鯛のお吸い物なようだ。

奥の座敷から、ニコニコと優しい笑顔の旦那さんが見つめていた。