仕事を終えて帰宅し、晩飯を食べてソファーに横になったところから、俺の記憶は、無い。
1時半頃にふと目が覚めて、布団に潜り込むも全く寝付けず、東京時代によく読んでいた石田ゆうすけの本を引っ張り出して、読んでいた。

タイトルは、『洗面器でヤギごはん』。
彼が7年半かけて世界一周自転車旅行をした中で食した、世界中の色んな飯をエッセイ仕立てで紹介している名著だ。

様々な土地の様々な食を詠み進めていくうちに、麺料理に差し掛かったときに、俺の想像力が胃袋を反応させて腹が鳴った。

空腹を増長させるだけの名著を閉じて、寝巻きのまま家を出て車を走らせた。








駅前通りは、朝の4時だというのに、偉く活気付いている。
土曜の深夜は、この不景気な田舎でもまだ元気なようだ。

いつか見た、屋台のラーメン屋が開いていた。
以前、地元の友人に旨いと言われ連れてこられたが、全く旨くなかったラーメン屋。
それでも、他に店が開いてないのだから、他に選択肢の余地は無く、渋々腰掛ける。

出されたラーメンは、アッサリした豚骨ラーメン。
スープを啜ると、まろやかな独特の味わいと、かすかに抜けるニンニクの香り。


旨い。

前回の不出来がウソのような旨みを放っている。
体がスープを、麺を、喜んで吸収していく。

いつの間にか、屋台の向かいには防音設備の整っていない、居酒屋を改装しただけのクラブが出来ていた。2流のDJが爆音で鳴らすテクノサウンドが漏れまくっている。

故郷を9年も離れた間に、地元の風景は少しずつ変わっていたようだ。


日本人とも外国人ともつかない、酔っ払いのわめき声とテクノサウンドが交じり合う喧騒を聞きながら、目の前には明け方のラーメン。


そんな風景に、大学時代のルーズな一人暮らしを重ね合わせる。



コンビニに入ると、熊本弁の観光客が喚き散らしながら、ホテルで飲むであろうビールとツマミ、アイスクリームを買っている。
それを脇目に、僕は東京の名店のカップラーメンを懐かしく思い手に取り、サッポロラガービールの赤星を合わせて家路に着いた。


帰り道すがら、明け方にラーメン食って、朝日の昇る頃にビールを飲むであろう自分を思うと、どこかワクワクしていた。


こんな日は、いつ振りだろうか。
なんだか、理由もなく、とにかく些細なことが楽しいのは。