先日の帰宅途中のこと。

工場での勤務が今週から始まり、またチャリンコ通勤を始めた私は、若干暗くなり始めたいつもの道を快適にサイクリングしていた。

すると、目の前にゆっくり走っているGIANTのマウンテンバイクに乗った少年に追いついた。
車の通りもあるし、追い抜かすのも面倒に思い、ひたすらゆっくり彼の後を走っていた。少し距離を空けて。

そうすると、どうだろう。
家の手前の坂道を上がる信号に捕まって停車した際に、彼はこちらを振り返り、私がレース用チャリと知ったとたん、オーラを放ってきたのである。そう。勝負師のオーラを。

車の信号が黄色から赤に変わったとたん、こちらを見ながら立ち漕ぎで全力疾走を始めた。かなり重いギアで、勢いがでるとかなりスピードはのりそうな雰囲気だ。
私も、何となく後をついて行く。極めてノリで。

そして、それほど早くもなかったので、横から『座り漕ぎ』でサラリと抜きにでると、それが異常にプライドに触ったらしく、彼は「フンッフンッ!」と鼻息荒く追いかけてくる。気持ち悪い。

若干アブなさを感じた私は、あくまで座り漕ぎのスタイルを崩すことなく、ギアをシフトアップさせて彼を引き離しにかかる。何故か私も必死だった。
スタート地点から400mも走ったろうか。私の家に向かう最後の角を曲がる際に、彼を振り返ると、立ち漕ぎのまま、まだ私を追いかけているようだ。

私は、遠くに彼のフンフンを聞きながら、フフーンと悦に浸りながら角を曲がる。
家までの道は角を曲がると平坦だが、いつもに増してペダルが重い。
どうやら彼との静かな勝負の余韻が太股から膝にかけてやってきているらしい。

家に着きソファーに腰掛けると、肌寒い風とは裏腹に、私の体は夏の日の様な火照りに包まれているのだった。




ホントにあった、なんのこっちゃの話。

チャンチャン。