~グラハムの自宅~
グラハム:おはよう!礼華さんw!メリークリスマス!
礼華:おはよう!あなた!メリークリスマス!
グラハム:とうとう、あの店最後の日になったんねぇ・・・。
そう、今日という日は、グラハムにとって。
65歳で定年という、店の方針上決められた定年退職の日であり。
そして、クリスマスの日・・・今年最後の営業日となっていた。
礼華:さぁ!この法被を着るのも今日が最後よ!
親方から先輩へ、そしてあなたへ引き継ぎ、次の若手さんへ
受け渡すのですものね!
しっかりと洗っておきましたから!
お店の板長が、代々着て表を張っていた。
言わば店の象徴でもあり、板前のトップとしてのプライドの
籠った法被を・・・。今日後輩に引き継ぐ事になっていた・・・。
グラハム:この法被を着たもしゅもしゅ先輩は怖かったけど、
この法被を着たいからがんばったんだもんなぁ・・・。
礼華:さっ!今日と最後までお勤め!お願いしますよ!
グラハム:ガッテンだい!!
礼華:はい!どうぞ!
グラハム:今日まで色々と苦労かけたね・・・。
礼華さんもご苦労さまでした!
グラハム:そうだ!今日はさクリスマスじゃん!!
受け取った法被を下ろし、おもむろに後のポケットを気にし出す。
これ!
グラハム:これはね、ぼくから礼華・・・じゃない・・・。
君へのクリスマスプレゼント・・・には・・・なるかなぁ・・・。
礼華:なんですか?パパこれは・・・?
グラハム:実はね。中学校のあめ先生からね、字を教わりながら。
ぼくの生まれて初めて書いた、君への恋文(ラブレター)なんだよ。
ぼくね、初めてお手紙が書けたんだよ!初めて!!
だからさ、初めての恋文を渡すなら。
君以外にいる訳が無い!そー思って、授業が終わってから書き続けて
いたんだよ・・・。
それに、3月になれば。ぼくも晴れて中学校を卒業できそうだ・・・。
卒業したら、字を教えてくれた先生ともお別れになっちゃうしさっ。
お陰で、中学生を6年もやっちゃったんだけどねw。
礼華:まあ・・・パパったら・・・。
グラハム:ここに置いて行くから、後で読んで下さい!
礼華:はい!ちゃんと読みますよ!!ありがとう!
こんなに嬉しいクリスマスプレゼントは、私も今まで貰った事ないわ。
グラハム:こんなぼくに、40年付き合ってくれて本当に
ありがとう!
礼華:いえいえ、こちらこそ。
至らない嫁ですが、これからも先。仲良くやっていきましょうね。
グラハム:よし!それじゃ!行って来るかな!
礼華:いってらっしゃい!!
グラハム:この法被とも今日でお別れだ!でも、後輩ができて
満足しているんだ!
グラハム:それじゃ!行ってきます!
礼華:遅刻しちゃいますよ!急いで急いで!
背中のくまという文字も、今日は何時もより大きく見える朝だった。
礼華:いってらっしゃーい!
ドアの開く錆ついた音がして・・・。
バタン!と締まり。部屋は、シーンと静まり返った・・・。
礼華:さてと・・・。パパが初めて書いた恋文。
礼華は、グラハムは仕事に出たあと。
そっとその封筒から2枚の便せんに書かれた手紙を手にした。
礼華;どれどれ・・・。んまぁ~・・・綺麗に書いてあるじゃない!
ところどころ、字が乱れてはいるものの。
概ね丁寧にシャーペンで書かれた手紙は、何度も書き直した跡
や、シワになったところや・・・。
礼華:パパったら・・・(涙)
礼華は、これまでの出来事をこの2枚の便せんで
辛かったあの頃を振りかえっていた・・・。
君へ
ぼくは初めてラブレターを書きます。
ぼくの人生で初めて書くラブレターを君にもらって
ほしくて勉強しました。
クリスマスの日に、ぼくが65歳の定年の日に、
板前としての最後の日に、君へラブレターを書きます。
君と結婚して40年がすぎ、2人の娘にめぐまれて
それぞれ結婚をし、はなれてゆきました。
家には、ぼくと君だけの2人きり。
君と結婚した時、ぼくは字が読めない事、書けない事を
君や娘たちにまで、だまっていてごめんなさい。
学校でいじめにあい、家もまずしく母ちゃんも亡くなり、
オヤジは他人で。ぼくは親せきの家をタライまわしに
されて学校にも行かせてもらえず。字も読めない、
足し算も引き算もできませんでした。
親せきの家を飛び出し、料理人となって。
親方の店にぼくが転がりこみ君と出会えた。
そして、今日40年もの時間をこんなぼくとすごしてくれた事。
教えてくれました。ぼくは君へ、どうしたら気持ちを
伝える事ができるのだろうかと、いっぱい考えた。
そして、1つの答えに至ったんだよ。勉強しようと。
自分のため、君のため、家族のため、恩をかけてくれた
親方のため。学校に行って勉強しようと決めたんだ。
ちょっと人より長く中学生を5年もやっちゃったけど、
定年前のこの数年間は、ぼくの人生でとても大切な
5年となったよ。
定年したら、君とずっといっしょにいすごせると思うと
今から楽しみだけど。まだまだ、ぼくの人生には君は
必要なんだよ。こんなぼくだけど、君と残りの人生を
いっしょにすごさせて下さい。そして、今まで苦労を
かけてきたね。おつかれさまでした。
そして、ありがとう!ぼくはこの一言が言いたくて、
大切な君に、この思いを何とかして伝えたくて。
今日このクリスマスの日までの長い道のりだったんだと
思うんだよ。今日までありがとう。
礼華:グラハムさん・・・こちらこそ。
ありがとう!
今日まで長かったわね・・・。
グラハムさんが静かに秘めた思いを抱いたのは私も同じ。
何時の日か私達は同じ気持ち、同じ夢を見てていたんだものね・・・。
あなたの夢は、今ちゃんと・・・叶いましたよ・・・。
私の心に、ちゃんと届きましたよ・・・。
この年初めて書いたグラハムの恋文(ラブレター)は、
そして・・・。
グラハムは、その翌年も・・・。
またその翌年も・・・。
そして、その次の年も・・・。
妻礼華に宛てて、毎年クリスマスには恋文(ラブレター)を
書き続けていった・・・。
ただ、ありがとうという気持ちを心の底から伝えたい
その一心で・・・。
今年のクリスマスもきっと彼は、
妻への恋文(ラブレター)を書いているに違いない・・・。
おわり
引き続き、【舞台:65年目の恋文(ラブレター)最終幕⑱】
をご覧ください。↓:下へ下げて行って下さい。