全速力で走る事で、骨と筋肉を繋ぐ腱が、骨から剥がれて
しまう骨折。”剥離骨折”を起こしてしまっていた。
それは、彼自身の強さでもある、掻きこむ前脚は振り上げが高く。
そして力強く地面を叩きつける走法とそのストライドは、
自分の肉体へダメージを与えてしまう・・・。まさに、諸刃の剣でもあった。

だが、再びターフに戻るには。そう簡単にはいかないもの・・・。
競走馬としての競争能力には問題は無かったものの、何時また起きるとも
知れない剥離骨折。
強靭な精神力に、肉体が追いつかないという現状には、何一つ
変わりはなかった。
ギプスを外し、いきなり走る事はできない。やはり、ゆっくりゆっくり
と歩く事で、剥離した箇所の修復治療がなされていた。
毎日毎日、トウカイテイオーとドームズセンター長の散歩は続く。

(かぽかぽ・・・てくてく・・・)

(かぽかぽ・・・てくてく・・・)
ドームズセンター長:なぁ~ボウ!もう痛くないか?
今日は暑いから少し休みながら歩こうや・・・。

(かぽかぽ・・・てくてく・・・)
ドームズセンター長:みろ!野ウサギが逃げて行ったぞぉ。
いつ終わるともない、長い長いリハビリ・・・。
北海道の夏も決して甘くは無い。しかし、二人は寄り添うように、
毎日毎日育成センターの野山を、歩き続けていた・・・。
その時、馬主ジャック夫婦と、マンセル調教師は・・・。
重苦しい空気の中、ジャックが口火を切った。

ジャック馬主:今度の、天皇賞・秋に。テイオーを出走させようと思う。
礼華さんは、驚いていた。
礼華:もう、怪我の具合は良くなったの?
ボウにまた怪我でも起きたら、どうなさるおつもりなの!?
ジャック:もうすぐ、先生が来てくださって。状況を説明してくださる。

ジャック:ねぇ、聞いてくれ!馬主となったからには、日本ダービーは
何より欲しかったものだ・・・。もちろん、ボウにとっても最高の栄誉だ!
だが、この国においてもう一つの最高の栄誉は!
天皇賞だ!
この2つさえあれば、ボウの血を後世まで残す為の、
最高の願いなんだ。
礼華:でも、ボウは傷だらけじゃないの・・・それでも走らせるの!?
ピンポーン!ドアベルが鳴った。

礼華:あっ!先生がお見えになられたのかしら?
マンセル調教師:お邪魔します。

ジャック:先生、お忙しい時にようこそおいで下さりました。
部屋へ招かれる、マンセル調教師。
表情は強張っている・・・。

礼華:お茶をお持ちしますわ。どうぞこちらへ。
紅茶がよろしいですか?
マンセル調教師:いえいえ、お構いなく・・・。

礼華さんが、すっとベンチを譲り。
礼華:男同士話す事もあるでしょうから・・・!
と、礼華さんの冷やかな空気を感じつつ、席に着く事にした。

マンセル調教師:電話で聞いた時には驚きましたよ。
ジャック:本当にすみません・・・。どうしても!どうしても!ボウには・・・。

ジャックは、マンセル調教師へ。深々と頭を下げた。
マンセル調教師:ジャックさん、頭を上げてください。分かりましたから。

そこへ、礼華さんが戻ってきた。

礼華:先生、家の人に言ってやってください。
ボウの怪我はどうなのですか?もう、無理はさせたくないのもある
んですけど・・・。
もちろん、礼華さんも馬を思っての事・・・。痛いほど分かる。
だが・・・。

マンセル調教師:奥さん、それは凄くよく分かるんです。
僕等も、ボウを傷つけたくて、傷つけようとしている訳ではないんです。
ジャックさんや、私、ドームズセンター長もそうだし、生産者のクリフさんも
そうなんですが。
まだ夢を諦めたくなんです!あの馬の力はこんなもんじゃない!
それをただ信じているんですよ。
ボウは、ボウの力は、ここからなんですよ!
礼華:先生が大丈夫と判断されたのならば!私もその夢に参加させてもらい
ますよ!いいですか?
マンセル調教師:もちろんじゃないですか!
そして、天皇賞・秋へ向けて、トウカイテイオーは調整を開始。
再び彼は、ターフへ戻ってきた・・・。

しかし、マンセル調教師は予め告げていた・・・。
今回の天皇賞・秋は、急仕上げ。その次の、ジャパンカップが狙い目かもと・・・。
そして、運命のゲートが開いた!
(※一部携帯電話からはご覧になれません。
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引き続き、舞台:この星を継ぐ者へ:第3幕④をご覧ください。</