定時後、あまり気乗りしないまま横山君にドナドナされる。
合コン・・・
俺は別に出会いなんて求めてないんだけど。
断われない性格を何とかしたい。
意気揚々と少し前を歩く横山君の背中にため息をつくと、ふいに横山君が足を止めた。
「あ・・・大野さん」
「大野さん・・・?」
横山君の視線の先、エントランスに佇む人影へと目をやる。
確かに大野さんだ。
社内の誰かと待ち合わせだろうか?
少し俯き加減の愁いを帯びた横顔が美しい。
ただそこにいるだけで絵になる・・・
美しく生まれるってそれだけですごく得をしていると思う。
ふと顔をあげた大野さんが、ふわりと微笑む。
あんなふうに微笑む大野さんを見たことがない。
その笑顔が向けられた先へと視線を移す。
大野さんに歩み寄る長身の男性・・・坂本専務だ。
同じように坂本専務へと視線を移した横山君が
「ああ・・・なるほど」
と一人納得したようにつぶやく。
「なるほどってなに?」
「え・・・ああ、大野さんの用事って坂本専務とデートだったんだと思って」
「・・・デート?」
「あれ?知らなかった?大野さんと坂本さんのこと」
横山君が不思議そうに首を傾げる。
「知らない」
社内にそれほど親しい人もいないから、業務外の情報ってほとんど入ってこない。
別に仕事していくうえで不便はないし、仕事に関係ない情報を積極的に入れようとも思わない。
人付き合いは感じが悪くない程度に最低限で、というのが俺のスタンスだ。
だからなぜ今日いきなり合コンに誘われたのかもよくわからない。
まあ、単に人数合わせだろうけど。
週末予定のなさそうな人間に見えたんだろう。
実際に予定もない。
横山君はちらちらっと周りをうかがってから、そっと俺の耳に顔を寄せる。
「大野さんと坂本さん、できてるって・・・」
「・・・できてる?」
思わず普通のトーンで問い返すと、
横山君はしーっと唇のまえで指を立てる。
「・・・櫻井君、大人なんだから察して」
大人だから察する・・・?
つまり、そういうできてる?
反射的に大野さんと坂本専務のほうに目をやる。
長身の坂本専務と小柄な大野さん。
親し気に微笑みあう二人の様子は・・・お似合いすぎてなんだか悔しい。
もしかして週末を一緒に過ごす人って坂本専務?
そうか・・・
そういうことか。