「・・・楽しそうだね」

不意に頭上から涼やかな声が降ってくる。

まさか・・・

半信半疑で声のほうへと顔を向ける。

「・・・大野さん」

驚きで少し声が掠れた。

艶やかな双眸が一瞬こちらに向けられて・・・

それが「智」ではなくて「大野さん」なのだとわかっていても、ドキッとする。

普段こんなふうに大野さんから声をかけられることなんてない。

大野さんは職場では雲の上の存在。

そんな人がなぜ俺と?という疑問はちょっと置いておくとして、

いつもなら俺のことなんて視界の端にも入れてなさそうなのに、わざわざ声をかけてくるなんて・・・

いったいどういう風の吹き回しだろう?

首を傾げる俺の隣で

「あっ・・・大野さん、大野さんも今日合コンどうです?」

突然横山君がとんでもないことをいいだすから、慌てて横山君の腕を引っ張った。

「よ・・・横山君・・・」

「なに?」

なに?・・・じゃなくて。

大野さんを合コンに誘うって、ありえない。

いくら人数足りてないからって、誘う相手を間違えている。

だいたい大野さんがいたら、合コンを楽しむどころじゃないだろ?

上司だぞ?

雲の上の存在だぞ?

「合コン・・・?」

虚を突かれたような表情になった大野さんに、

横山君は「はい!」と元気よく頷く。

横山君のメンタルの強さに頭痛を覚えつつ、

横山君の陰に隠れて置物に徹しよう・・・と心に決めたその時、

「・・・も、ということは・・・櫻井君もいくの?」

大野さんの視線が俺へと移る。

只今置物なので、俺のことは放っておいてもらえたら・・・

なんとなく目を合わせないように視線を落とす。

「はい、櫻井君も行きます」

「ちょ・・・」

ちょっと待て。

俺はまだ行くとも行かないとも言ってない。

「あの・・・横山君・・・」

「なに?」

いや、だから・・・なに?じゃなくて。

「合コンねぇ・・・」

妙に冷え冷えとした大野さんの声に、なぜか背中がすーっと寒くなって思わず自分を抱きしめる。

なんだ?

・・・風邪か?

「そう・・・とても魅力的なお誘いだけど、今日は先約があってね・・・」

さすができる男。

俺のようにぐずぐずもたもたしているうちに、参加することになるようなへまはしない。

速やかにスマートに誘いを断って

「・・・楽しんできて」

無駄に優美な笑顔を浮かべた大野さんに

「はい!」

横山君がにこにこと応じる。

・・・楽しめるのか?