「今日はここでいい」
そう声をかけると運転手は訳知り顔で車を路肩に寄せた。
何も聞いてはこないが、おそらくこの辺りに囲っている女がいるとでも思っているんだろう。
・・・囲っているのであればどんなにいいか。
俺は智君を囲っているわけではないし、智君も囲われるつもりなんてないだろう。
所謂愛人ではないし、恋人関係はとっくに解消しているから、智君を縛っておけるものもなにもない。
今は智君の好意に甘えている状態で・・・
智君にとってなんのメリットもないこの状態が長く続くとは思っていない。
智君をつなぎとめる何かが思い当たらない。
それこそ金銭的な援助など受け取ってはくれないだろうし。
本当に、囲っているのであればどんなにいいか。
・・・そういえば父には囲っていた女性がいたらしい。
らしい・・・というのはすべてが終わってから知ったことだから。
浮気ではなくて、そちらが本命だったようだ。
母との結婚はあくまで政略的なもので、
母と結婚する前からの恋人と別れないまま、家のために母と結婚した。
純愛を貫いた・・・なんて例え政略結婚でも妻からしてみれば許せる話ではない。
父の恋人だった人はすでに他界しているらしいけれど・・・
母は父の裏切りを許すことはなく、俺の結婚を機に家を出た。
そういえば子供のころ父はあまり家にいなかった。
そういうものだと思っていたけれど、あれは恋人の家に入り浸っていたということだろう。
母はそれでずいぶん悩んでいたらしいのに、全く気付くことがなかった俺は、こどもだったことを差し引いても相当鈍いんだろうと思う。
その父が言う「結婚と恋愛は別」はなかなか重い言葉だ。
別・・・といいながら、父は結婚よりも恋愛を優先した。
俺は・・・
縁あって結婚した妻に母のような思いをさせたくないと思う。
そう思うのに・・・
智君を諦められなくて・・・
こうして妻に隠れて智君のもとに通うことをやめられずにいた。
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これはリアル設定ではないです。
わかりにくいかなと思ったので、いちおう・・・