櫻井さんに家の近くまで送ってもらって・・・
夢見心地のまま帰ってきた。
まだなんだかふわふわする。
夢・・・じゃないよね?
だって・・・
まだ櫻井さんの唇の感触が残ってる唇にそっと指で触れてみる。
・・・夢じゃない。
櫻井さんが僕を好き・・・って・・・
「・・・何かあった?」
潤君の声に反射的に顔をあげた。
いけない・・・食事中だった。
フォークの先でぐるぐるまかれたままのパスタに目を落とす。
「え・・・あの・・・えっと・・・」
しどろもどろになる僕を、潤君はじっと見つめる。
目力強いんだから、そんなに睨まないでほしい。
「な・・・なんにもないよ」
ふるふると首を横に振って、潤君の視線から逃げるように再びパスタの皿に落とした。
潤君は櫻井さんのこと嫌ってるから・・・
櫻井さんと会っていたことを知ったら怒ると思う。
まして今日のことを・・・
好きっていわれたなんて知ったら・・・
どうやったら誤魔化せるかと、フォークをぐるぐる動かす。
「・・・智は嘘をつくのが下手だよね」
潤君は呆れたようにためいきをつく。
「・・・あいつがらみでしょ?」
「あ・・・あいつって・・・?」
嘘をつくのが下手なりに、なんとか誤魔化そうと首を傾げると、
潤君は疑わしい目をちらりとこちらによこして、心底嫌そうに顔を顰める。
「櫻井・・・っていったっけ?あのいけすかない男」
いけすかない・・・って。
なんで潤君はそんなに櫻井さんのこと嫌うんだろう。
潤君に何かしたわけでもないのに。
「あいつ・・・まだ智の周りをウロウロしてるわけ?」
潤君が吐き捨てるように言う。
「櫻井さんは・・・潤君が思ってるような人じゃないよ?」
「じゃあ逆に聞くけど、智はあいつの何を知ってるっていうわけ?」
・・・なにを・・・って・・・。
口ごもる。
何も・・・何も知らない。
知らないけど・・・。
「ほら、何も知らないでしょ?」
潤君が勝ち誇ったように言う。
「智を騙すのなんて簡単なんだから・・・」
また騙すって・・・
「僕を騙すメリットがないよ」
「智は世間を知らなすぎる」
僕より年下のはずの従弟は、やれやれと呆れたようにため息をついた。