「鍵・・・返してくれる?」
おもむろに切り出すと、智君は本当に不思議そうに首を傾げる。
「・・・鍵?・・・なんで?」
「でも・・・」
智君は不満げに唇を尖らせる。
でも・・・の先、智君の言いたいことはわかる。
今までずっとそうしてきたのに・・・ってことだろう。
それはそうだけど・・・
でも・・・
「今までがおかしかったんだよ・・・恋人でもないのに・・・」
「その鍵は・・・普通恋人が持つものでしょ・・・?」
自由に出入りできるように鍵を渡したのは俺だ。
渡した時は、いつか恋人になれるんじゃないかって、そんな期待もあったんだと思う。
最近ではそんなことはもう諦めていたけれど・・・
「でも・・・恋人いないんでしょ?」
容赦なく、傷口に塩をぐいぐい塗り込んでくる智君に苦笑いするしかない。
「今はね・・・でもこれから探すつもり・・・探すって変だね。これからは他にも目を向けてみる・・・かな・・・」
ずっと智君しか見てこなかった。
すぐそばにいたニノの好意にさえ気づかなかったのは、さすがに鈍感すぎると思うし・・・
智君とのことがなければ、ニノのことももっと前向きに考えられたかもしれない。
今からだって、遅くはないのかも・・・
なんて・・・それは智君が許さないか。
「ふーん・・・」
なにやら難しい顔で目を伏せた智君が、次の瞬間何か思いついたようにぱっと顔をあげる。
・・・嫌な予感しかしない。
身構えた俺の耳に
「・・・は?」
この人は何をいってるんだろう?
俺の気持ちを知って・・・
それでも今まで通り・・・?
そんなこと・・・
「だって・・・今恋人いなんでしょ?だったら今まで通りでいいじゃん」
聴こえなかったと思ったのか、
そう繰り返して
「・・・いいじゃん・・・って、あなた・・・」
呆気にとられて言葉を失う俺に向かって、再び手を伸ばす。
俺をのぞき込んで小さく首を傾げる。
うっすらと微笑んだ唇の隙間から赤い舌がちらりとのぞく。
鼻をくすぐる甘い香りは理性を溶かす毒だ。
頭の芯がぼーっとして・・・
なんだか・・・なにもかもどうでもよくなってくる。
いつもこうやって流されてきた。
こうやってずるずると・・・