「鍵・・・返してくれる?」

おもむろに切り出すと、智君は本当に不思議そうに首を傾げる。

「・・・鍵?・・・なんで?」

「なんで・・・って・・・」
俺にしてみればこの流れで「なんで?」とくるのが「なんで?」だ。
「恋人でもないのに・・・智君が持ってるの、おかしいでしょ・・・?」

「でも・・・」

智君は不満げに唇を尖らせる。

でも・・・の先、智君の言いたいことはわかる。

今までずっとそうしてきたのに・・・ってことだろう。

それはそうだけど・・・

でも・・・

「今までがおかしかったんだよ・・・恋人でもないのに・・・」

恋人でもない・・・
友達でもない・・・
ただの仕事仲間でもない。
智君にとって都合がいいだけの関係。
ため息をつく。

「その鍵は・・・普通恋人が持つものでしょ・・・?」

自由に出入りできるように鍵を渡したのは俺だ。

渡した時は、いつか恋人になれるんじゃないかって、そんな期待もあったんだと思う。

最近ではそんなことはもう諦めていたけれど・・・

「でも・・・恋人いないんでしょ?」

容赦なく、傷口に塩をぐいぐい塗り込んでくる智君に苦笑いするしかない。

「今はね・・・でもこれから探すつもり・・・探すって変だね。これからは他にも目を向けてみる・・・かな・・・」

ずっと智君しか見てこなかった。

すぐそばにいたニノの好意にさえ気づかなかったのは、さすがに鈍感すぎると思うし・・・

智君とのことがなければ、ニノのことももっと前向きに考えられたかもしれない。

今からだって、遅くはないのかも・・・

なんて・・・それは智君が許さないか。

「ふーん・・・」

なにやら難しい顔で目を伏せた智君が、次の瞬間何か思いついたようにぱっと顔をあげる。

・・・嫌な予感しかしない。

身構えた俺の耳に

「じゃあ・・・今まで通りでいいんじゃない?」
とんでもない言葉が飛び込んでくる。

「・・・は?」

この人は何をいってるんだろう?

俺の気持ちを知って・・・

それでも今まで通り・・・?

そんなこと・・・

「だって・・・今恋人いなんでしょ?だったら今まで通りでいいじゃん」

聴こえなかったと思ったのか、

そう繰り返して

「・・・いいじゃん・・・って、あなた・・・」

呆気にとられて言葉を失う俺に向かって、再び手を伸ばす。

引き寄せられて・・・
「久しぶりに翔ちゃんとしたい・・・」
耳元で甘えるように囁く。
俺が断るなんて思ってないんだろう。
「松潤と別れたんだし・・・いいでしょ?」

俺をのぞき込んで小さく首を傾げる。

うっすらと微笑んだ唇の隙間から赤い舌がちらりとのぞく。

鼻をくすぐる甘い香りは理性を溶かす毒だ。

頭の芯がぼーっとして・・・

なんだか・・・なにもかもどうでもよくなってくる。

いつもこうやって流されてきた。

こうやってずるずると・・・