「悪いけど・・・遠慮させてもらうよ・・・」

首に絡みつく智君の腕をそっとほどいて、一歩さがって距離をとる。

「・・・なんで?」

驚きで上ずった声・・・

大きく見開いた目には戸惑いの色が浮かぶ。

俺が断るなんて思いもよらなかったんだろう。

それはそうだ。

だって智君は「つきあってあげる」側なんだから。

「つきあってもらう」側の俺が断るなんて普通はありえない。

「俺のこと好きなんじゃないの・・・?」

「好きだよ・・・ずっと好きだった。でも・・・智君は俺のこと好きじゃないでしょ・・・?」

「それは・・・」

智君は困惑したように言葉を詰まらせる。

「・・・そんなふうに考えたことないからわからない」

考えあぐねた末でてきた答えがそれ。

嘘でも好きだっていってくれたらいいのに・・・

良くも悪くも律儀というか・・・正直な人だ。

「・・・そうだろうね」

思わず苦笑すると

「でも・・・嫌いじゃないよ?」

慌てたように付け加える。

フォローのつもりだろうか?

どちらかというと傷口に塩・・・の方だけど。

・・・わかってる。

智君にとって俺は好きとか嫌いとか・・・そういう対象じゃないってことは。

好きでも嫌いでもない・・・そもそも俺に興味がない。

それなのに俺とつきあってみようなんて気紛れを起こしたのは、松本と別れたタイミングで偶々俺の気持ちを知ったから。

お試しで・・・

とりあえず・・・

次の恋との間を埋める緩衝材にちょうどいいと思ったんだろう。

所詮、智君にとって俺はその程度の存在だ。

「智君とつきあっても、片想いなのには変わりないから・・・。だから・・・智君とはつきあえない」

智君の恋人にしてもらったところで・・・智君が俺を好きになるわけじゃない。

俺の片想いが終わるわけじゃないんだ。

「・・・そういうもの?」

智君は理解できない・・・とでもいうように首を傾げる。

智君にしてみれば・・・

せっかく付き合ってあげるって言ってるのに・・・というところだろう。

「そういうものでしょ・・・」

俺は・・・愛する人に愛されたいんだ。

つきあう・・・恋人同士になる・・・ってそういうことだろ?

でも智君との間に、それは望めそうにないから。

どこまでいっても俺の一方的な片想いのままだ。

「ふーん・・・」

智君はつまらなそうに唇を尖らせる。

「・・・翔ちゃん・・・真面目だね?」

奇しくも、相葉君と同じ台詞に苦笑する。

もちろん褒めているわけじゃないこともわかってる。

青臭いことを言うつまらない男だと思ってるんだろう。

「・・・そうでもないよ」

俺が本当に真面目だったら・・・

智君とこんな関係にはなってないだろう。

智君に想いを伝えたのは智君の恋人になりたいからじゃない。

逆だ。

この想いを断ち切って・・・

この不毛な関係を・・・

長すぎた片想いを終わらせるためだ。