「ふーん・・・じゃあ・・・」

智君は無造作に俺に向かって両腕をのばすと

「・・・つきあう?」

遠慮なく俺の首に両腕を絡ませて、いい考えでしょ・・・とばかりに小さく首を傾げて俺をのぞき込む。

「・・・は?」

反射的に問い返すと、

聴こえなかったと思ったのか・・・

「・・・俺のこと好きなんでしょ?じゃあつきあえばよくない?」

いや・・・聴こえてないわけではない。

聴こえていたからこそ・・・の「は?」だ。

この人は自分が何を言っているのかわかってるんだろうか。

だいたい、つきあう・・・って・・・

「・・・あなた・・・松本は?」

「ああ・・・」

智君はその名前に一瞬明後日の方向に視線を漂わせる。

この感じ既視感が・・・

まさか・・・

「松潤とは・・・別れた・・・」

「・・・別れた?」

「うん・・・別れた」

こくりと頷く智君に脱力する。

少なくとも今日の帰りのふたりを見る限り別れるような雰囲気ではなかった。

いつも通り仲良く肩を並べて帰ったはずだ。

それがなぜ急に別れた・・・となるのか・・・

「別にケンカしたとかじゃなんだけどね・・・お互いにね・・・なんか違うかな・・・って・・・」

聞いてもないのに、険悪な別れじゃない、あくまで円満に別れたんだ・・・ということを強調して、智君はんふふ・・・と上目遣いで媚びるように笑う。

「ああ・・・そう・・・」

別れの理由を言及するつもりはない。

実際に智君の言う通りなんだろう。

もともとお試しで・・・ということだったみたいだし。

だいたいいつだって智君の恋愛は突然はじまって・・・突然終わる。

それ自体は驚くことでもないし・・・
松本ともそうだったというだけだろう。
むしろ・・・

「ね・・・だから・・・翔ちゃんと付き合えるよ?」

・・・今までにない展開に困惑が隠せない。

「それ・・・本気で言ってるの・・・?」

「もちろん、本気だよ。翔ちゃん優しいし・・・イケメンだし・・・」

優しい・・・?

イケメン・・・?

首を捻る。

もし本当に俺のことをそう評価してるなら、なぜニノとのことを反対したんだ?

大切な仲間とはつきあわせられない・・・とわざわざのりこんできてまでニノとのことを反対したのは・・・俺のことを最低な男だと思ってたからじゃないのか?

ほんと何を考えているのか全く分からない。

智君を理解するなんて無理だってことはわかってるけど・・・

「ね・・・翔ちゃん・・・」

魅惑的な微笑みを浮かべた君が身体をすり寄せてくる。

長い睫毛の奥・・・潤んだ瞳が俺をのぞき込む。

そんなことは願っても無駄だ・・・と思いながらも・・・

それでもどこかで・・・待ち続ければいつか俺にも順番がまわってくるんじゃないかと微かな期待をしていた。

智君の恋が終わるたびに・・・

今度こそは・・・俺を選んでくれるんじゃないか・・・って・・・。

いつか・・・

そのいつかが・・・今なら・・・

その細い腰を抱き寄せれば・・・俺の長く不毛な片思いは終わる。