櫻井さんが持ってきてくれるスイーツはどれもきれいでおいしいものばかりで・・・

このお店の中の世界しか知らない僕と違って、櫻井さんはいろんなことを知ってるんだろう。

僕が知らない世界をたくさん。

櫻井さんはいつもいろいろな話をしてくれるけど・・・

僕には話すことなんて何もなくて。

ただ櫻井さんの話に相槌をうつだけしかできない。

そんな僕と話をしていて、櫻井さんは楽しいのかな・・・?って心配になる。

つまらないんじゃないかな・・・って・・・。

どうして櫻井さんはここに来てくれるんだろう。

でも・・・どうして来てくれるの?なんて・・・聞けない。

聞いたらこの夢のような時間が消えてしまいそうだから。

もう少しだけ・・・櫻井さんとこうしていたい。

その優しい声を聞いていたい。

「・・・どうかしました?」

櫻井さんにのぞき込まれてドキッとする。

またぼんやりしてた?

「・・・櫻井さん、いろんなお店を知ってるんだなあ・・・と思って・・・」

しどろもどろ応える僕に、櫻井さんはちょっと複雑な、なんともいえないような表情を浮かべる。

「特別詳しいわけじゃないんですよ。ただ・・・大野さんと一緒に食べたいな・・・と思って調べたり・・・人に聞いたりしてるんです」

「・・・僕と?」

・・・どうして?

首を傾げると

「ええ・・・大野さんと・・・」

櫻井さんは軽く頷いて

「つまり・・・大野さんに会いに来る口実ですよ」

少し恥ずかしそうに鼻の頭を指でかく。

「・・・え?」
・・・僕に会いに来る・・・口実って?
それ・・・どういう意味・・・?
櫻井さんの言っている意味がわからなくて・・・
戸惑う僕に、くすっと笑った櫻井さんが、おもむろに僕に向かって手を伸ばす。
「・・・ここにクリームが・・・」
櫻井さんの指が僕の唇の端をそっとぬぐう。
突然のことにびっくりして・・・思わず目を伏せる。
櫻井さんの指が触れたところがふわっと熱くなって・・・
その熱が頬に・・・
身体全体へとひろがっていく。
「・・・大野さん」
優しい声で名前を呼ばれて・・・
おずおずと視線をあげる。

頬が熱い。

恥ずかしくて・・・櫻井さんの顔を見れない。

きっと顔が真っ赤になってるにちがいない僕を・・・櫻井さんのきれいな瞳がのぞき込む。

目が合って・・・時が止まる。

自分の心臓の音だけがドクドクと耳に響く。

ゆっくりと近づいてくる櫻井さんを不思議な気持ちで見つめる。

唇に・・・櫻井さんのやわからな唇を感じて・・・

反射的に目を閉じた。