櫻井さんが持ってきてくれるスイーツはどれもきれいでおいしいものばかりで・・・
このお店の中の世界しか知らない僕と違って、櫻井さんはいろんなことを知ってるんだろう。
僕が知らない世界をたくさん。
櫻井さんはいつもいろいろな話をしてくれるけど・・・
僕には話すことなんて何もなくて。
ただ櫻井さんの話に相槌をうつだけしかできない。
そんな僕と話をしていて、櫻井さんは楽しいのかな・・・?って心配になる。
つまらないんじゃないかな・・・って・・・。
どうして櫻井さんはここに来てくれるんだろう。
でも・・・どうして来てくれるの?なんて・・・聞けない。
聞いたらこの夢のような時間が消えてしまいそうだから。
もう少しだけ・・・櫻井さんとこうしていたい。
その優しい声を聞いていたい。
「・・・どうかしました?」
櫻井さんにのぞき込まれてドキッとする。
またぼんやりしてた?
「・・・櫻井さん、いろんなお店を知ってるんだなあ・・・と思って・・・」
しどろもどろ応える僕に、櫻井さんはちょっと複雑な、なんともいえないような表情を浮かべる。
「特別詳しいわけじゃないんですよ。ただ・・・大野さんと一緒に食べたいな・・・と思って調べたり・・・人に聞いたりしてるんです」
「・・・僕と?」
・・・どうして?
首を傾げると
「ええ・・・大野さんと・・・」
櫻井さんは軽く頷いて
「つまり・・・大野さんに会いに来る口実ですよ」
少し恥ずかしそうに鼻の頭を指でかく。
頬が熱い。
恥ずかしくて・・・櫻井さんの顔を見れない。
目が合って・・・時が止まる。
自分の心臓の音だけがドクドクと耳に響く。
ゆっくりと近づいてくる櫻井さんを不思議な気持ちで見つめる。
唇に・・・櫻井さんのやわからな唇を感じて・・・
反射的に目を閉じた。