「・・・あなただって・・・付き合う気もないのに俺とキスするじゃない」
俺の言いたいことを察したのか、
智君ははあ・・・っと大きくため息をつくと
悪びれるふうでもなく、むしろ不満げに唇を尖らせる。
「それとこれとはちがうでしょ?」
「・・・違う?何が違うっていうの?」
「何が・・・って、ニノは翔ちゃんのことが好きだったんだよ?」
わからないの?と智君は眉を寄せる。
お互いにわりきった関係の自分たちとは違う・・・と言いたいんだろうか。
そもそも恋人同士が愛情を確かめ合うための行為のはずなのに・・・
割り切っているからいいというのも変な話だ。
・・・智君には恋人もいるのに。
割り切っているからいい・・・なんて、智君のこういう理屈はよくわからないし
理解しようというのが無理なんだってこともわかっているけど。
それに・・・もし仮に割り切った関係だからいいのだとしても・・・
割り切っているのは智君だけだ。
俺は・・・
ため息をつく。
「・・・違わないよ」
智君から視線を逸らして・・・小さく首を横に振った。
「・・・違わないって?」
智君は訝しむように首を傾げる。
「違わない・・・だって・・・」
その先の言葉を一瞬躊躇して、言葉を詰まらせた俺を、
俺の気持ちなんて知る由もない智君が不思議そうにのぞき込む。
気持ちを伝えたら・・・
智君とのこの不思議で不毛な関係は終わる。

気まずくなるだろう。

智君じゃなくて・・・俺の方が。
ニノはあれからも普通に接してくれているけれど・・・
はたして俺にそれができるのかどうか。
今まで通りとはいかない。
せめて仕事仲間として良好な関係をと願ってきたけれど、それすら難しくなるだろう。
それでも終わらせないといけないんだろう。

自分のために・・・

そして俺を心配して・・・大切だと思ってくれている人のためにも。
幸せにならないといけない。
ゆっくりと顔を上げて・・・
智君と視線を合わせる。
「・・・翔ちゃん?」
悲壮な決意の俺を智君が不思議そうに見つめる。
「・・・違わないよ」
喉の奥から絞り出した声が震える。
「・・・俺・・・・智君のことが好きだから・・・」