例えもう諦めるにしたって、少しでも良好な関係を保ちたい。
そんな俺の気持ちなんて知る由もない智君は
「つきあってない・・・?でも・・・じゃあなんでキス・・・?」
騙されないぞ・・・とでもいうように俺を睨む。
別に騙す気なんてない。
ないけれど・・・
「あれは・・・」
あれをどう説明すればいいのか・・・わからない。
なんとなくそういう雰囲気になった・・・なんて、ますますいい加減でひどい男だと思われるだけだろうし・・・。
どう説明したって言い訳がましくなるだけだろうし・・・
だいたいなんであんなことになったのか自分でもよくわからないから説明のしようがない。
それに・・・あの一瞬、ニノに心が傾いたのも事実で・・・。
でも・・・
「と・・・とにかく、ちゃんと断ったし・・・ニノも納得してくれたから・・・」
当事者の俺とニノの間ではもうちゃんと決着がついていることだ。
部外者の智君に責められるようなことは何もないはずだ。
それなのに智君はますます険しい顔になる。
「納得って・・・付き合う気もないのにキスしたわけ・・・?」
完全に俺が悪者だ。
智君からしてみれば、俺は大切なニノを傷つけた悪い男でしかないんだろうけど。
でも・・・つきあう気もないのに・・・って・・・
それこそつきあう気もないのに、俺と関係を持ち続けた智君がそれを言うのか・・・と、半ば呆れたような気持ちなる。
「ニノかわいそう・・・」
「・・・かわいそう?」
智君のふいに発したその言葉に、ぷつり・・・と何がが切れたような気がした。
ニノがかわいそうなら・・・
俺だってかわいそうだろう。
「・・・あなたがそれをいうわけ?」
半ば怒りのような感情がこみあげくる。
いつものようにそれを飲み込むことができず・・・
強引に智君の細い肩を抱き寄せた。
俺の腕の中でびくりと肩を揺らしたのは一瞬・・・
とくに抵抗するでもなく腕の中に納まった智君の薄く開かれた唇に唇を押し当てる。
冷たい唇。
何も得るもののない・・・愛情のともなわないキス。
唇の隙間から舌を差し入れると・・・拒むことなく受け入れて・・・

さらにその先の快感を求めて身体を摺り寄せてくる智君の身体を強く押して身体を離した。

「・・・なに?」
突然突き放されて、呆然と俺を見返す智君の、少し潤んだ瞳に
愛する人に愛されることを知らない、惨めな男の顔が映りこんでいた。