カラン・・・

ドアチャイムが鳴るたびに、

もしかしたら・・・とドアに目をやって、入ってきたお客さんを見てがっかりする。

そんなことをずっと繰り返していた。

もちろん、お客様にがっかりした顔を見せたりはしない。

だけど・・・

いつもと変わらず仕事をこなしながら、心は彼のことばかり考えていた。

雨宿りで立ち寄っただけの、

名前しか知らない人なのに、なんでこんなに気になるんだろう。

時々ドアに目をやって、彼がドアを開けて入ってくるのを想像する。

優しい笑顔と、耳に心地よい優しい声を思い出して、胸がじんわりと熱くなる。

こんな気持ちになるのは初めてのことで、
この気持ちがなんなのか、
自分のことなのに、よくわからない。

彼がドアを開けて入ってくるのを心待ちにしながら、

反面、来ないでほしい・・・とも思う。

彼がタオルを持っている間は、彼と繋がっていられる気がするから。

タオルを返しに来るのを待つことができるから。

彼がタオルを持って現れたら、そこでつながりは切れてしまう。

終わってしまうから。

 

 

 

もう来ないのかもしれない。

彼にとってはここで雨宿りしたことも・・・

タオルも、

僕のことも、

とくに記憶に残ることでもなかったんだろう。

突然の雨に足止めされて立ち寄っただけの場所を覚えておく必要なんてない。

もう忘れてしまっているのなら、それでもいい。

そう思い始めた3日後の閉店間際・・・

カラン・・・

ドアチャイムが鳴る音に、ゆっくりと顔をあげると、

櫻井さんが優しい笑顔を浮かべて立っていた。