「真面目って・・・」
言うに事を欠いてそれか・・・と、思わず苦笑する。
決して褒め言葉じゃないのは相葉君の表情でわかる。
「別に今付き合ってる人がいないなら、失礼とか思わなくてもいいんじゃない?」
あっさりと言い切る相葉君に絶句する。
「・・・好きな人がいても?」
「好きな人って・・・片思いでしょ?だったら問題ないじゃん。いっしょにいて楽しかったら、その人を好きになっていけるものだと思うよ」
「好きになっていける・・・って・・・」
好きだからつきあう・・・じゃなくて・・・
好きになってくれた人とつきあってその人を好きになるってこと・・・?
「それは打算的すぎるんじゃないの・・・?」
恋愛ってそんなに打算的なものじゃないだろう。
他の人がどうなのかはわからないけど・・・少なくとも俺にとってはそうだ。
だから・・・報われない片思いを続けてきたんだから。
「別に打算的でもいいんじゃない?それで幸せになれるなら・・・」
「別にそこまでして誰かとつきあいたいとか・・・幸せになりたいとか思ってないから・・・」
首を横に振って、相葉君の話を遮る。
もうこれ以上この話を続けたくない。
相葉君の考え方と俺の考え方には大きな差がありすぎて・・・
どれだけ話してもその差は埋まりそうにない。
テーブルの上の料理は大方片付いて、お開きの様相だ。
そろそろ・・・と腰をうかしかけた俺に
「ね・・・翔ちゃん・・・片思いは楽しい?」
ふいに相葉君が問う。
相葉君の質問の真意を測りかねて、腰を浮かしかけたまま相葉君の顔をまじまじと見つめる。
智君にも同じようなことを聞かれたっけ。
片思いは楽しいのかって・・・。
智君は片思いの経験なんてなくて、純粋な好奇心からの質問だったんだろうけど。
相葉君はそんなことわざわざ聞かなくてもわかるだろう。
なんでそんなわかりきったことを聞くんだろう。
・・・からかわれているんだろうか?
なんだかおもしろくない気持ちで、再び椅子に腰を下ろして
「・・・楽しくないよ」
仏頂面で軽く首を横にふる。
片思いが楽しいわけがない。
どんなに想っても受け入れられることのない思いは募るばかりで・・・
切なくて・・・
苦しくて・・・
そして、ただ虚しいだけだ。
「・・・そうだよね」
同情めいた表情を浮かべた相葉君が相槌をうつ。
「翔ちゃんにとってその片思いが楽しいならいいけど・・・そうじゃないなら、翔ちゃんを好きになってくれる人と幸せになることを考えてもいいんじゃないかな・・・」
「俺を・・・好きになってくれる人・・・?」
「そう、翔ちゃんを好きになってくれる人」
相葉君は深くうなずく。
「一人の人を想い続けるのも素敵なことだと思うけど・・・、でもそれじゃ幸せになれないでしょ?翔ちゃんはもっと自分を大切にしたほうがいいんじゃないかな・・・?」
「自分を大切に・・・って・・・」
別に・・・自分をぞんざいに扱ってきたつもりはない。
相葉君の遠回しな言い方になんだかイライラする。
「自分を好きになってくれる誰かとつきあうことが自分を大切にすることだっていうわけ・・・?」
やや感情的になりかけている俺を諭すように、相葉君はゆっくりと首を横に振る。
「そうじゃなくて・・・。もっと気楽に考えてもいいんじゃない・・・ってこと」
「気楽に・・・って・・・」
気楽に・・・好きでもない人とつきあえっていうのか。
つきあってるうちに好きになる・・・なんて、そんなふうには思えない。
そんなの相手にも失礼だろう。
やっぱり相葉君とは考え方が合わないみたいだ。
「気楽に・・・っていうか、難しく考えなくてもいいって言うか・・・」
むっとする俺を見て、相葉君は困ったように笑う。
「翔ちゃん・・・ほんと真面目だよね。そこが翔ちゃんのいいところだとは思うけど・・・でもね、自分自身をもっと大切にしてあげてほしい。自分自身を幸せにしてあげてほしいんだ。片思いを続けることが幸せならそれもいいと思うけど・・・そうじゃなさそうだから・・・」
「自分を・・・幸せに・・・?」
確かに・・・片思いは幸せとは言えない。
でも俺は・・・俺は・・・智君への想いはとりあえずおいておいて・・・
俺を好きになってくれる誰かと・・・なんて器用なことはできない。
そんなこと自分が一番よくわかってる。
智君を想い続ける限り、相葉君が言うような幸せとは縁がないことはわかっているし・・・
とっくに諦めている。
「俺は別に幸せになりたいと思ってないから。相葉君には理解できないかもしれないけど・・・俺は・・・それでいいって納得してるんだ・・・」
相葉君はよりいっそう困った顔になる。
「幸せになりたいと思ってないなんて、そんなこと言わないで・・・誰だって愛されて幸せになる権利があるんだよ」
「愛されて・・・幸せになる権利・・・?」
ニノも・・・そんなことを言っていた。
俺にも愛される権利があるって・・・
俺にそんなものがあるんだろうか。
どんなに想っても・・・智君に愛されることのない俺に・・・。
それどころか・・・智君にとって俺は・・・
「翔ちゃんは大切な仲間だからね。幸せになってほしいと思ってるんだ」
相葉君の言葉に顔をあげる。

「・・・大切な・・・仲間?」

「そうだよ。大切な仲間。翔ちゃんもニノも大ちゃんも松潤もね。だからみんなに幸せになってほしいと思ってるよ」

相葉君にとって俺は・・・大切な仲間・・・?

「ニノや松本と同じ・・・?」

「同じだよ」

当たり前だろう・・・と相葉君が頷く。

「翔ちゃんもニノも大ちゃんも松潤もみんな同じ・・・大切な仲間だよ」

ニノや松本と同じ・・・

ふいに頑なになっていた心がふっとほどけるような・・・

肩に入っていた力が抜けるような不思議な感覚に涙がこぼれそうになって、ごまかすようにグラスの底に残ったビールを喉に流し込んだ。

智君が大切だといったのはニノだけだった。

恋人に選ばれたのは松本で・・・。

俺は・・・智君の大切な人のカテゴリには入らない。

大切に思う人に大切に思われない・・・そんなことが続くうちに・・・

自分を価値のない、取るに足らない存在だと思うようになっていたのかもしれない。

俺は幸せなんて縁がないんだと・・・思い込んでいたのかも・・・

「翔ちゃん、ずっと何かつらそうだったから・・・心配してたんだ・・・」
相葉君がぽつりとつぶやいた言葉に驚いて相葉君を見返す。
「・・・心配?」
「そう・・・だからニノと上手くいけばいいなって思ったんだ。ニノとなら翔ちゃん幸せになれるんじゃないかな・・・って。別に強要するわけじゃないんだけどね・・・」
もしかして・・・今日飲みに誘ってくれたのも・・・
ニノとのことを聞き出したいからじゃなくて・・・
俺を心配してくれていたから?
「相葉君・・・」
俺は・・・俺も誰かに大切に思われる人間なんだってことを・・・
俺のことを心配してくれる仲間がいるんだということも忘れていたんだ。
俺も・・誰かに愛されて・・・
幸せになれる権利があるんだろうか・・・
「ありがと・・・ちょっと考えてみるよ・・・」
相葉君は少し驚いたように俺を見つめて、それから少しほっとしたようににっこりと微笑むと
「でも・・・あんまり難しく考えなくてもいいよ・・・?」
と付け加えた。