周りのざわめきに何事かと顔をあげて・・・ぎょっとする。

お・・・お父さん?

ドアから顔をだしてきょろきょろと部屋の中の様子を窺う不審者さながらのその人は紛れもなく翔君のお父さんで・・・。

なんでこんなところに・・・?

と思って・・・いや、いてもおかしくはないな、と思い直す。

そう・・・いてもおかしくはない。

おかしくはないけれど・・・

翔君の実家で顔を合わせたときにすぐに気が付かなかった言い訳をするわけじゃないけれど、この会社に勤めてそれなりに年月が経っているが、その姿を遠巻きに数回見たことがある程度で、普通はこんな下々の者のところに気軽に降りてくるような人じゃない。

その人がなぜここに?

しかも供の者も連れず単独で?

思うことはみんな同じのようで・・・

明らかにこの場にそぐわない異質なものの登場に、新年早々厄介事がもちこまれた・・・とばかりに、課長でさえもこれはどうしたものかと姿勢を低くして顔を見合わせている。

向かい側の席で和也君が額を押さえてため息をつくのが目に入って、ああ・・・そうか、と思う。

和也君の初出社の日だから、様子を見に来たのか。

なるほど・・・と、納得しかけたその時・・・

ふいにお父さんと目があう。

「あっ・・・」

見つけた・・・とでもいうように満面の笑みを浮かべるお父さん。

ああ・・・笑顔が翔君そっくり・・・、なんてのんきなこと言っている場合ではなかった。

その翔君そっくりの笑顔を浮かべたお父さんが嬉しそうにまっすぐにこちらに向かってくるのにさらにぎょっとする。

ちょ・・・ちょっと待て。

・・/俺?

俺か・・・?

和也君じゃないの?

ここは触らぬ神に祟りなし・・・と、事の成り行きを見守るかの如くしん静まり返る室内。

みんなの視線の先は・・・満面の笑みのお父さんと狼狽える俺。

そうこうするうちに距離を詰めてくるお父さん。

ふいに視線を遮るように割って入った人影を見上げる。

「か・・・和也君・・・?」

おもむろに振り返った和也君が

「すみませんね・・・」

申し訳なそうに苦笑いを浮かべた。