倒れこんできた智君をしっかりと両腕で抱きしめる。

「・・・ダメだよ。俺はなかったことになんてできない。するもりない」

「・・・翔君」

まるで窘めるような智君の困ったような声とため息。

ずっと智君を欺いてきたくせに、いまさら勝手なことを・・・と呆れているのかもしれない。

でも・・・もう離れたくないし・・・離したくなかった。

智君を抱きしめる腕に力をこめる。

「ごめん・・・智君・・・。

俺・・・全然いい恋人じゃなかったよね?

俺がひどい恋人だったせいで・・・智君にたくさん悲しい思いをさせたこと・・・

智君につらい思いばかりさせてきたこと・・・ずっと謝りたかった」

「・・・そんなこと」

気にしなくてもいい・・・

とでもいうように、智君は俺の胸に顔をこすりつけるように顔を左右に振る。

「ううん・・・ほんとにごめん・・・。

智君の言う通り・・・俺は・・・」
本当のことを言うのが躊躇われて・・・
言葉に詰まる。
でも・・・ちゃんと話さなくちゃ・・・。
何もかもすべてを話して・・・
その上で智君とやりなおしたい。
そんなのはただの自己満足かもしれないし・・・
本当のことを言ったら・・・許してもらえないかも・・・
受け入れてもらえないかもしれない。
でも・・・
嘘をついたまま有耶無耶にしてしまったら、わだかまりが残る気がして・・・
深呼吸をして、覚悟を決める。
「俺は・・・自分のために智君のこと隠してたんだ・・・。
智君とのことを知られたくなかった。

まわりに知らせて好奇の目で見られるのも嫌だったし・・・

普通の恋愛や結婚にも未練があったんだと思う。

だから・・・二人のためなんて嘘をついてた。

智君は全部わかってたんだよね?

俺のこと・・・怒ってる・・・?

許せない・・・?

でも・・・俺は・・・

智君とのことなかったことになんてできないから。

・・・なかったことになんてできなかった。

智君が記憶をなくして・・・
智君とのことが全部なかったことになってしまって・・・
そうなってやっと気づいたんだ。
智君じゃないとダメだって・・・
他の誰でもなくて・・・
智君じゃないと・・・って・・・。
都合のいいこと言ってるってわかってる。

でも・・・もう一度だけ・・・

もう一度だけチャンスがほしい。

今度は絶対泣かせたりしない。

幸せにするから・・・

だから・・・」

不覚にも声に涙が混じる。

腕の中で智君がどんな顔をしているのかわからない。

怒ってるのか・・・

また調子のいいことを・・・と呆れているのか・・・。

長すぎる沈黙に・・・

やっぱりダメなのか・・・と不安になりかけたその時・・・

腕の中の智君がかすかに身じろぎする。

「これ・・・」

つぶやいた智君の指先が、俺の胸元の指輪をすくう。

そっと身体を起こした智君は俺をのぞき込むと

「これ・・・おいらのでしょ・・・?」

そう言って少し恥ずかしそうに微笑んだ。