倒れこんできた智君をしっかりと両腕で抱きしめる。
「・・・ダメだよ。俺はなかったことになんてできない。するもりない」
「・・・翔君」
まるで窘めるような智君の困ったような声とため息。
ずっと智君を欺いてきたくせに、いまさら勝手なことを・・・と呆れているのかもしれない。
でも・・・もう離れたくないし・・・離したくなかった。
智君を抱きしめる腕に力をこめる。
「ごめん・・・智君・・・。
俺・・・全然いい恋人じゃなかったよね?
俺がひどい恋人だったせいで・・・智君にたくさん悲しい思いをさせたこと・・・
智君につらい思いばかりさせてきたこと・・・ずっと謝りたかった」
「・・・そんなこと」
気にしなくてもいい・・・
とでもいうように、智君は俺の胸に顔をこすりつけるように顔を左右に振る。
「ううん・・・ほんとにごめん・・・。
まわりに知らせて好奇の目で見られるのも嫌だったし・・・
普通の恋愛や結婚にも未練があったんだと思う。
だから・・・二人のためなんて嘘をついてた。
智君は全部わかってたんだよね?
俺のこと・・・怒ってる・・・?
許せない・・・?
でも・・・俺は・・・
智君とのことなかったことになんてできないから。
・・・なかったことになんてできなかった。
でも・・・もう一度だけ・・・
もう一度だけチャンスがほしい。
今度は絶対泣かせたりしない。
幸せにするから・・・
だから・・・」
不覚にも声に涙が混じる。
腕の中で智君がどんな顔をしているのかわからない。
怒ってるのか・・・
また調子のいいことを・・・と呆れているのか・・・。
長すぎる沈黙に・・・
やっぱりダメなのか・・・と不安になりかけたその時・・・
腕の中の智君がかすかに身じろぎする。
「これ・・・」
つぶやいた智君の指先が、俺の胸元の指輪をすくう。
そっと身体を起こした智君は俺をのぞき込むと
「これ・・・おいらのでしょ・・・?」
そう言って少し恥ずかしそうに微笑んだ。