ニノとふたりきりの楽屋。
促されるままに隣に腰を下ろしたものの、体の片側に感じるニノの体温になんだか気まずいような・・・落ち着かない気持ちになる。
早く他の誰かがこないかとドアの方に目をやるけれど、残念ながらドアが開く気配はない。
さりげなく隣に座るニノの様子を窺うと、ゲーム画面に目を落としている。
その目線がこちらに戻ってきそうにないことに少しほっとしつつ・・・
(そうだ・・・資料に目を通しておこう・・・)
落ち着かない気持ちを紛らわせようとして、いそいそとバッグにかけた手に、ふいに隣からのびてきたニノの手が重なる。
恐る恐るゆっくりと顔をあげると・・・薄茶の瞳とぶつかる。

「・・・考えてくれました?」

おもむろにニノが尋ねる。

「・・・えっと・・・あの・・・」

しどろもどろになる俺にニノは少し困ったように首を傾げる。

考えてくれた・・・?というのは・・・あの話のこと・・・だよな?

あれは冗談じゃなかったんだ・・・?
・・・なんて。
あんな話冗談であるはずがない。
ニノはそんなふうに俺をからかったりはしない。
そんなことわかっていたのに・・・ニノが何も言わないのなら、このまま冗談だったということで有耶無耶にしてしまおうとしていた自分の狡さを恥じる。
考えてみれば俺はいつだってそうだ。
智君とのことだって・・・
恋人でもないのに、なぜ俺と関係を持つのか問いただすこともせず・・・
ずるずると曖昧な関係を続けてきた。
俺のことをどう思っているのか?
なんで俺とこんな関係を続けているのか?
智君に問いただすべきだった。
はっきりさせるべきだったのに・・・
思わず下唇をかんだ俺を
「・・・翔さん?」
ニノが答えを促すようにのぞき込む。
答えはもう決まっている。
ニノのためにも嘘はつけない。
ちゃんと・・・伝えないと・・・。
そう思うのに・・・情けないことに言葉が出てこない。
ニノを傷つけることのない上手い断り方・・・なんて・・・どんなに考えたって思い浮かばない。
「・・・ごめん」
乾いた喉からなんとかその一言を絞り出すと、それですべてを察したニノの表情が曇る。
・・・胸が痛い。
想いが受け入れられない切なさは、俺もよく知っているから・・・
「それは・・・ダメってこと・・・?」
ニノが探るように、確認するように聞く。
「・・・ごめん」
頭を下げた。
どうすればいいのかわからなくて・・・

ただ謝罪を繰り返すしかできない俺に、ニノは小さくため息をついた。