久し振りにお姫様ネタを3回シリーズでお話しさせて頂きます。
さて…
「今日はヴェルサイユは大変な賑わいですこと。」
たったこれだけの言葉(フランス語にすれば、たったの7語)が戦争回避に向かわせたと言ったら信じられますか?
少々大袈裟の様ですが、マリア・テレジアは気を揉むような気持ちで、この一言を待っていました。
オーストリアからフランスにお嫁入りしたマリー・アントワネットは、まだまだ遊び盛りの14歳。
式典等の宮廷行事以外は、堅苦しい伝統儀礼など取っ払ったアットホームな宮廷で育ったアントワネット。
溜まった宿題は家庭教師にやらせて、伸び伸びと育っただけに、何の足しにもならない儀礼尽くめのフランス宮廷には当然馴染めない。
相変わらずタタターッと軽やかにヴェルサイユの階段や廊下を走り抜けては、今日もお小言を頂戴してしまう。
「ようござんす、私達がしっかりと宮廷作法を教えしましょう」とばかりに、国王のお嫁に行かなかった3人の娘達に、アントワネットの教育が託されました。
教育?
Non! Non!
この、何の徳も積んで来なかった、行かず後家の叔母達を訪ねる貴族達など殆どいません。
宮廷は卑しい階級出身のプリマドンナ・デュバリー夫人に独占され、暇を持て余して面白くなかった国王の娘達は、アントワネットをあてがわれ「よし、これで良い玩具を手に入れた」と言わんばかりに、デュバリー夫人の悪口をたぁ〜ぷりと吹き込んだのです。
皮肉たっぷりの宮廷風のあしらい方も一緒にね。
お祖父様の愛人?! 娼婦?!
こちらの宮廷には、そんな身分の方が出入り出来るの?
オーストリアではあり得ない話しに思わず「ぞっ」としてしまう。
フランスに着いた晩、内輪の夕食の席で「あの美しい方はどの様な方ですの?」と好意的な印象を持ったアントワネットも、パリの娼婦上りの愛人と聞き、風紀やモラルに口煩かった母マリア・テレジアの影響も手伝って、アントワネットは「なんて卑しい女なのだろう」と身震いしてしまう。
母マリア・テレジアなら、仮に、デュバリー夫人の身元を知っても、国王のお気に入りと思えば卒なく接する術もあるけれど、まだまだ子供のアントワネットは、口を真一文字に結び、視線を逸らせて通り過ぎてしまう。
だって、オーストリアには寵姫なんて居なかったもん!
尤も、女帝なら王者としての品格から、寵姫と言えども見下す事もなかったでしょう。
しかし、根が純粋なアントワネットは、つい祖国の常識を持ち出してしまう。
シェーンブルンの動物園に連れて行ってくれた優しい父は、寵姫なんて置かなかったと…(いや、いや、置かなかったのではなく、婿さんだから置けなかったのよん)
この女同士の対決が、寵姫と王太子妃だけの間に済めば問題はなかったんです。
王太子妃から無視されているのを日常的に見ている宮廷貴族達は皆デュバリー夫人の事を心良く思っている筈もないので、あからさまに薄笑いを浮かべるし、国王の娘達は鬼の首を取った様に鼻高々だ。
くっ悔しい…。皆で人を馬鹿にして。
それに、何よ、あの小娘!
しかし、どんなに悔しがっても序列は王太子妃の方が上。
自分は王太子妃からお言葉を掛けてくれるのをジッと待つしかない。
毎夜のデュバリー夫人の泣き落としに、うんざりした国王が、オーストリア大使メルシーを通して、王太子妃から寵姫に言葉をかける様に命令したにも関わらず、アントワネットが平然と無視し続けたから、流石に国王の逆鱗に触れたって訳です。
実は…
アントワネットは人から指図される事は大嫌い!
しかも、「自分は王家ハプスブルクの人間である」と言う事を誇りも強かったんです。
一方、いくら可愛くて仕方がない孫の嫁とは言え、今まで誰1人逆らう者などいなかった国王に対して、たかが子供の分際で平然と楯突くとは、例え可愛い嫁でも言語道断!!
それまで、アントワネット可愛さに、寵姫の愚痴にも「はい、はい」と適当に相槌を打っていた国王の管尺玉に火をつけた。
「このわしの命令を無視するとは、臣下の前で示しがつかないではないかっ!」
・・・・なんだか、頑固者同士の対決ですね。
しかし、今や寵姫の事より自分のプライドを傷つけられた事の方が気に障って、フランス・オーストリア同盟破棄をチラつかせる迄に発展したのです。
と、ここ迄は誰もが知っている話ですね。
アントワネットも頑固で、メルシーが何を言っても聞く耳を持たない。
流石に、王太子妃と言えでも毒殺される恐れがあると脅かした時は、アントワネットも一瞬動揺した表情を見せたけれど、さして効果はありませんでした。
そこで、アントワネットがただ1人逆らえない相手、オーストリアにいる女帝が説得に乗り出す事に…。
身持ちの固さについては、常日頃、口煩く言ってきた女帝ですから、今更、その様な女性と親しくする様にと叱るのは、娘の気持ちをおもんばかると気が引けるのですが、背に腹は代えられません。
実はこの時、女帝は、アントワネットの兄である皇帝ヨーゼフ2世が起こした問題で、この時、引くに引けない事情を抱えていたんです。
・・・・to be continued