家を出たところで沈丁花の匂いがした
この辺で匂うのはそうそうないことなので
少し真剣になって
その匂いの主を探してみるが
どうも見つからない
いやいや落ち着け
もう少し慎重になれば必ず見つかるはずだ
早稲田通りに出た
沈丁花はとうに諦めた
諦めたけど沈丁花の代わりになるものが見たくてたまらない
もう花ならなんでもいい
大好きな東西線なら何とかなるはずだ
あまりに乗り心地がいいもので
あっちゅうまに木場に着いた
五郎さんの真似をして
沢海橋に行って見ようかしら
ほげーっと河津桜を見てたら
すげー腹が減ってきた
じゃあ、五郎さんのまた真似っこで
カマルプール行っちゃう?
チーズクルチャ、ゴルゴンゾーラクルチャで
五郎さんのように
チーズがうにょーんって
それも妙案だけど
まだ春だぜ、カマルプールで泳ぐのはまだ早くないか?
この先にあるあの名店の行列を確認してからでも遅くはないのでは?
うん、7番目だね
とてもラッキーだから
味玉つけ麺にしてみようかな
奥様から申し訳なさそうに
暑いですから日傘をどうぞ
と云われた
お店の入口にある傘立てには
まだまっさらな日傘が何本?
ひいふうみいよう…
少なくとも
並んでいるお客さんには行き渡るような本数が傘立てに差されていた
まだ春が始まったばかりだというのに
そんなことを思いながら
腰掛けに座り、日傘を差していると
あっちゅうまに
僕の順番がまわってきた
ぴかぴかの麺をひとすすり
思うところに
またひとすすり
麺は口当たり柔らかに
だけど
芯はしっかり筋が通してある
たっぷり浸けて
ずるずると音をたてるように啜った
王道の濃厚豚骨魚介
そんな予感もあっさり裏切られ
まだまだ
のりしろを感じる淡味な味わい
だから飽きない
でもなんだろう?
啜れば啜るほどに
ぴりぴりと
明らかに辛味を感じる
唐辛子?
いや、山椒かな?
スープ割りを頂いて
ぐびぐび飲んだ
お暑いのに、
大変お待たせして申し訳ありません
奥様にもう5回くらい言われた
7番目に並んで
たった15分くらいしか待ってなかったのに
しかも
腰掛けに座って、
日傘まで貸してくださったのに