「おい、帰りしなでええから、芳林堂でananの今週号を買うてきてくれ」

僕が出掛けようとコーデュロイのズボンを穿いているとこう云われた

「今週号はな美乳強化特集号なんや。オマエの好きなゆきりんのグフフも載っとるらしいで」

「今日はあっちに行かないから」 

そう言って、僕が断ると

「はぁ?キサマ何ぬかしとんねん。ええか、今週号やぞ。間違っても佐々木希の先週号を買うてくるんやないぞ。三吉彩花ちゃんが表紙のやつやからな。もし間違えたら、ホンマしばきたおしたるからな」

どうやら僕には、断るという選択肢は存在しないらしい

何が三吉なんちゃらちゃんの表紙だ

僕が三吉嬢の顔なんて知らないことを知っていて言っているのだ。

嗚呼、腹がたつ

しかもananなんて毎週自分で買ってるくせに、なんで今週に限って僕なのだろう?

しかもゆきりんのグフフだと

恥ずかしい

ハゲでデブで不細工でええ年こいたオッチャンがananなんて

芳林堂の会計の店員さんが僕の差し出したananを受け取ったとき、何と思われるんだろう?

いやだわ、こんなハゲオヤジがananなんて

女性誌って知っているのよね

これはきっと、ゆきりんのグフフが目当てなんだわ、ほんとキモいわ

って、思われるに決まっているのだ

タマコは、そんなこと百も承知のうえで僕に命令をしたのだ

嗚呼、芳林堂のエスカレーターが速い

女性誌はこの辺かな

あたりをつけてみると、本当に佐々木希さんのananがあった

いやはやタマコの危機管理能力は恐ろしいな

指示がなかったら本当にこれを買っていたぞ

驚嘆しながら周りをみてみると

シマのカドの一番目立つところに平積みにしてあった

ananの扉文字の左サイドに「美乳強化塾」とあるから間違いないだろう

この女性が三吉彩花さんなのか

表紙から僕を見つめている女性は

妖艶で

露になったデコルテが

とみに乳白色であった




僕はananが入ったサステナブルな袋をぶら下げて、明治通りジャンクションまでやってきた

さっきの三吉彩花さんのデコルテに魅せられて、今日はぜったい和だ!と思ったからだ

僕は右に折れ明治通りを歩く

目的地はすぐそこだった




どの椅子にも「もりそば」のフェルト

とても可愛い


僕は鴨せいろをオーダー



手打ちのニ八そば

喉越しのツルリ感が堪らなく楽しい


そして、この鴨つゆが素敵

醤油のかえしが控えめで鴨の旨味をうまく演出しているのだ

鴨自体もオーダーしてから火を通すので香ばしいことこのうえない

焼き葱も甘い

うん、美味いなぁ


最後に蕎麦湯

どうですか、この乳白色

もう、僕は蕎麦湯だけでもいい

濃厚でとろとろです

さぁ、

これに鴨の旨味もあいまって

うふふ

ありがとう、タマコよ

キミの言った三吉彩花のananは

ホンマに最高だ