タマコが「おはよう」のかわりにこれ。
さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。細長く、細長く。紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。気怠げに見せてくれたりもするしね。葉緑体?オオカナダモ?ハッ。っていうこのスタンス。あなたたちは微生物を見てはしゃいでいるみたいですけど(苦笑)、私はちょっと遠慮しておく、だってもう高校生だし。ま、あなたたちを横目で見ながらプリントでも千切ってますよ、気怠く。っていうこのスタンス。
タマコが「蹴りたい背中や」と云う。
僕が「芥川賞の?」と云うと
タマコは「実はそうやねん」と。
つるつるとスクロールすると、確かにそんな感じ。
くらりと揺れて貧血かと案じ、家の本棚にしがみついたら、本棚も、壁にかけたカレンダーも揺れていて、ようやく地震だと気づくのだった。
タマコが「昔から芥川賞作家になりたかってん」
僕が「それは知ってる」
タマコは「綿矢は女子高生やってん」
信じられない、地面がこんなにもたやすく揺らぐなんて。私のアパートは、プリンのうえに建っているのか。床がやわらかくなり、ゆっくり溶けてくずれていく感覚。
「どうやったら、芥川賞作家になれるんやろ?」
タマコがまっすぐ僕を見る。
「もう、無理なんじゃない」
「いや、子供ができたらや、子供ができたら変わるんちゃうやろか」
タマコはぐっと乗り出す。
マジで云っているのだろうか。
僕は云ってやった。
「うん、できたら、きっと変わると思うよ」