【モノ】タウンユース用「手こぎ自転車」
私の今年のメルマガタイトルは「よのなかメガネ発想術」。きょうはその第4回目(月に2回出稿)を書きました。同じものをブログにも転載することにします。
蓮香尚文の「よのなかメガネ発想術」[2012/02/27配信]
http://s-pr.com/super-prway/all.php?id=3747
◎今回のタイトルは「手こぎ自転車」
■オリジナル製品を自社開発したい(1/2)
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コラムタイトルの「よのなかメガネ」は物事を思考するとき、自分や自社のこ とだけを考えないで、「よのなか全体」からみる発想習慣のことです。よのな か=社会=ソーシャル=俯瞰(ふかん)と置き換えてもOK。「よのなかメガネ」というフィルター(視点)から発想すると、素敵なPRアイデイアが湧き出てきます。
4回目のきょうは、足ではなく手でこぐハンドサイクルを開発した埼玉県朝霞市のステンレス溶接会社「宇賀神(うがじん)溶接工業所」の話題。
自転車の一般的イメージは足でこぐ二輪車。これまでドイツやアメリカ製のハンドサイクル(ハンドバイク)はありましたが、ほとんどがレース用だったため上半身や手の筋力があまりない方には乗ることが出来ませんでした。それを誰でも簡単に乗れるようにしたのです。 ▽宇賀神溶接工業所 ⇒ http://www.yousetsu.net/
開発したのは同社社長の宇賀神一弘さん(42歳)。
宇賀神さんが実家の同社に入社したのは1998年。バブル崩壊後の景気の低迷と重なり、受注は減少傾向に。取引先からは低単価ばかりを要求され、下請け会社同士での合見積合戦はしのぎを削る限界まできていました。
「下請けの仕事をこなすだけではわが社の明日はない」と考えた宇賀神さん。他社にはない自社だけのオリジナル製品を作るべく、WELDICH(ウェルディック)というブランドの「インテリア商品」を開発・販売を始めました。
同製品は名誉あるデザインコンペなどに入賞、それをきっかけに新たな分野での受注に繋がっていきました。そうした活動を自社HPで展開していた矢先、事故で下肢の自由を奪われた自転車ライターの方から突然ハンドサイクル製作の注文オファーが来ました。
この時の宇賀神さんの心境。「自転車は作ったことがないし、図面があれば仕事なのでお引き受けするけれど図面すらなかった。だから『できません』と言いそうになりました。しかし、ものづくりに携わる人間として他の人ができないなら自分が作ってみたいとの気持ちになりました」。まさに未知への挑戦でした。
「最大の問題は私自身これまで自転車を作ったことがないことでした。どのようなパーツが必要で、どこに何が必要かまったくわからず、製作を始める以前の問題がありました」(宇賀神さん)。
■依頼人の情熱・熱望に感動(2/2)
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ハンドサイクルの依頼主は自転車ライターの町田敦志さん(34歳)。町田さんの仕事は雑誌に自転車の記事を書くライター。2007年、自転車に乗っていたところ、街路樹に激突して頸椎(けいつい)を骨折して四肢まひに。
リハビリして車いすで生活できるまで回復したが、「自分で自由に移動できる自転車があれば」と不自由な足の代わりに手で車輪を回転させて走行できる「ハンドサイクル」を希望するようになった。ハンドサイクルはペダル代わりにハンドルを両手で操作すると、それに連動している前輪が回転するという仕組み。
町田さんは、理想の車体を図面化して関係業者に製作を持ちかけたが「複雑すぎる」と断られ続けた。あきらめかけていた時、宇賀神さんのHPに掲載されていたのオリジナルのいすが目にとまり、その高い技術力に惚れ込み、「ハンドサイクル」を作ってほしいと懇願した。
宇賀神さんは自転車を作ったことがなかったため最初は断ったが、町田さんの鬼気迫る熱意に根負けした。宇賀神さんは「あなたの技術ならできるんですと何度も言われ、もの作りにかかわる者として熱くなった」と振り返ります。
そして、知人だったデザイナーの柴田映司さん(43歳)に相談。完成イメージを3Dで作ることからはじめ、「フレームの長さは何ミリが妥当なのか」 「どこにどんなパーツが必要なのか」などを検証していき、図面に落とし込んで実際に製作して再検証する繰り返し。やっと図面が完成し、ハンドサイクルの試作品ができるまでに1年の歳月を要していた。
完成後、試乗した町田さんは四肢まひと診断された時でさえ涙は流さなかったが、この時はうれしくて男泣きしたという。町田さんは「車椅子とは違うスピード感があります。感謝という言葉では表せないくらいすばらしい」。さらに 「春には自宅近くの河川敷のサイクリングロードを目一杯走りたい」とも。
ここで、誕生した手こぎ自転車「ハンドサイクル」の商品特徴を。
[1] シートの位置が「車いす」のシート位置とほぼ同じなため、障害者向けのレース用
自転車とは異なり、乗り降りが比較的楽にできる。
[2] 電動アシスト搭載モデルもありますので、手の筋力が弱くても漕ぐことができる。
急な坂道も上れる。
[3] デザイン性にもこだわりがある。従来の「福祉車両」は安全・機能重視なので乗
っていても格好良くなかったが、デザインにも優れており、「グッドデザイン賞201
1」受賞になったほど。
[4] 安定性に優れている。具体的には歩いている人と一緒の速度で街を走ることこと
が可能。
[5] 機構は統一しているが、ほぼオーダーメイドでの対応になりますので、細かいと
ころまで、ユーザーの要望に応えることが可能。例えば、握力が弱い方にはグリ
ップをその人に合わせた形状にしてあげられるなど。
宇賀神さんは「下半身に障害を持っている方、車いすしか移動手段しかない方用に開発しましたので普段の生活の中で使って欲しい」と話しています。さらに、「障害者だけでなく友達や介護する人も一緒に楽しむことができる新しい乗り物とし、健常者にアミューズメント施設や公園などレンタサイクルなどの利用も考えています」と夢は大きく膨らんでせいます。
また、「ハンドサイクルに乗るには普段と違う筋肉を使う。スポーツとしても効果がある」と宇賀神社長。価格は1台70万円前後。本年度中の受注目標は10台。
すでにNHKテレビをはじめ、全国紙など有力メデイアに大きく取り上げられた。今回の手応えを感じた宇賀神さん。すでに子ども向けや電動機付きの自転車にも着手。手こぎの自転車をビジネスの柱に据えようと考えています。これまでに町田さんのも含めて4台を受注・製作した。
宇賀神さんは、「町工場で働く職人は、3K(きつい・きたない・きびしい)で大変な環境・仕事であることは確かですが、それでも、ものづくりをする人間が表に出て社会に役立つを仕事をしていけば楽しいものだよ、といいたい。
一方で技術者の高齢化が進み跡取りもいないのも現実」であるけれど、中小企業が今後生き残りをかけたサバイバル戦争に勝っていくためには「これまでのように職人は社内に残ったまま言われた仕事だけをコツコツとやるだけの受け身の『受注』ではなく『創注』主義になるよう体質転換が必要。具体的には積極的に外に出て、自分で考えたものを、自分で作り、自分 から売り込んでいく総合力の時代になったのでは」と語っています。
私の心に刺さった宇賀神さんの言葉。
・「お客様のご依頼に、すぐに『出来ません』とは言いません」
・「誰もやったことのない分野にこそ可能性があり、無限の喜びがあります」
手でこぐ自転車をレース用ではなく、一般の人でも楽しく乗れるように「タウンユース用」に開発した今回のハンドサイクル。
その開発姿勢や発想の源泉には
「社会と人の役に立ちたい」
「自分にできないはずがない」
「オリジナル商品をもって下請け会社から脱却したい」
という強い信念があるのだとお見受けしました。 (了)
これまでに書いたコラム「よのなかメガネ発想術」
01回目は「常識を否定したバリアフリー」(2012/1/12)
http://s-pr.com/super-prway/all.php?id=3679
02回目は「秋入学で発想力を鍛えよう」(2012/1/26)
http://s-pr.com/super-prway/all.php?id=3699
03回目は「女性向けどんぶり専門店の挑戦」(2012/2/13)
http://s-pr.com/super-prway/all.php?id=3724
04回目は「手こぎ自転車」(2012/2/27)
http://s-pr.com/super-prway/all.php?id=3747


