健一があやの部屋の合鍵を手にしてから一週間が経っていたが
そのカギは健一のキーケースに収められたままで
あやの部屋のドアの鍵穴に差し込まれてはいない。
健一のキーケースには
家の鍵、バイクの鍵、バイク盗難防止錠の鍵、自転車の鍵、そしてあやの部屋の鍵
5つの鍵が入っていてパンパンに膨れてしまっていた。

健一はあやの部屋の鍵を手にした時
特に何も感じることは無かったのだが
改めて考えると何かうれしくなった。
合鍵をもらうのも初めての経験だったし
何よりあやとの距離がさらに縮まったと思った。
あやが自分のことを信用している証拠なのだ。
あやが自分のことを愛している証拠なのだ。
健一はそんなことを考えながら会社の休憩室で独り
コンビニ弁当を食べていた。
ちょっとしたプレゼントよりも嬉しいな。
あやに何かプレゼントでもしようかな。
特に何もイベントもないんだけど…。

「お、矢田クン!そこ座ってもいい?」
声をかけてきたのは葛西先輩だった。
年齢は1つ上で会社でも一年先輩である。
「あ、葛西さんお疲れ様です、どうぞどうぞ」
健一はドキッとしたが相手が葛西さんだったのでホッとした。
先輩や上司と一緒になるは極力避けたいのだ。
坂井や同僚なら全然良いがそれ以外の人と一緒になるなら
独りのほうが全然いいのだから。

しかし葛西さんは先輩といっても友達感覚だ。
堅苦しくない敬語を使うが
言葉遣いで怒られたことがない。
というより葛西さんには怒られたことがない。
仕事中に会っても休憩中に会っても仕事の話はほとんどすることがない。
そして他の先輩とは違ってあまり先輩ヅラしない人だなと健一は思っていた。
どんな話をするのかというと
お互いの彼女の話やファッションの話
バイクやクルマの話、はたまた会社の人間の話。

坂井が以前「眠たい」やら「腹減った」なんて言葉を口にして
上司にさんざん怒られたと言っていたが
葛西さんは怒らない。
というより葛西さん自身が
「だりぃ」
という言葉を吐く。
健一も同調するが何も言い返されない。

「矢田クン、彼女とはどう?」
「はい、うまくいってますよ、この前合鍵渡されたんですよー」
「へぇやるねー」
「葛西さんはどうなんですか?」
「オレ?うまくいってるよ」
葛西さんは先輩で一番良い先輩だと思っていたが
うわさで女関係は激しいと聞いていた。
確かに葛西さんは女にモテそうな男だと思った。
坂井と似たタイプなのかとも考えたが
会話の中で坂井とは全然違う人だということがわかった。
集団行動は苦手らしい。
そこは健一と同じだったのが二人が仲良くなる要因だったのかもしれない。

「矢田クン、今度仕事終わりに飲みに行こうよ」
「あ、はい!」
「次の日休みだったら遅くなってもいいだろ?」
「はい大丈夫ですよ」
「次、いつ休み?」
飲みに行く約束をして休憩を終えた二人は仕事場に戻って行った。



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