人類が進化して5万年から10万年ほど前に現代人の祖先が出現した頃には、人間は細胞を損傷から守るために、果物と野菜に含まれる有色物質(フィトケミカル)に頼るようになっていました。人間自身の体内にも、DNAを保護する物質をつくる機能はあるのですが、進化の過程で不必要になって失われたものも多くあります。たとえば古代人の食生活にビタミンCが豊富だったため、ビタミンCを作る遺伝子がなくなりました。有色物質(フィトケミカル)のなかには、ニンジンのオレンジ色のように体内の脂質に蓄えられるものもあれば、ブロッコリーの緑のように細胞を刺激してDNAを保護するたんぱく質生成をうながすものもあります。植物食品に含まれる保護物質の多くは体内で分解され、摂り入れた量の20%ほどだけが、尿と一緒に排出されます。この植物性栄養素(フィトケミカル)は分解の過程でDNAに信号を送り、「酵素」と呼ばれる特殊なたんぱく質生成を促進します。酵素には、植物性栄養素(フィトケミカル)の分解と同時に、細胞内でつくられたり食事から摂り入れられたりしたある種の毒素も分解するはたらきがあります。想像していただければわかるとおり、分解される毒素は、ある特定の果物や野菜にふくまれる植物性栄養素(フィトケミカル)と化学構造を同じくするものだけです。ですから、できるだけ多くの種類の植物食品を摂り入れることが理にかなっているわけです。この植物性栄養素(フィトケミカル)を分解するためにできた酵素は、アスピリンから最高に強力な抗生物質に至るまで様々な薬品に含まれる化学物質から、人間の身体を守るはたらきもします。その一つの証拠として、グレープフルーツジュースを飲むと、高コレステロール治療薬として一番よく用いられる処方薬の、体内での分解作用に影響が出るという事実があります。普通量を服用した場合、2倍濃度のグレープフルーツジュースを3日間飲んだ後では、薬の血中濃度が2倍になります。小腸の表面に、グレープフルーツジュース中の化学物質によって生成が抑制される酵素があるのです。グレープフルーツ中の化学物質と遺伝子とのこのような相互作用は、食事が体内の酵素システムにいかに強力な影響を及ぼすかを示す、1つの例にすぎません。このような酵素の変化が、食事や自然環境のなかにある化学物質から身体を守るはたらきもするということを知っていただきたいのです。