そんな苦戦の中で、北川はある日突然大株主のNP証券から急な呼び出しを受けた。

 

北川は元は経営企画担当であり、各株主へのコンタクトも少なからず持ってはいたのだが、余りにも突然の声掛けに驚きは隠せなかった。実情の営業報告でお茶を濁しつつ、彼は彼なりのパフォーマンスで状況を強気で説明する以外にはない。その日は実情説明で事なきを得た。が、その後再びコバタ社長が長期に渡って米国に帰っている頃、北川は再びに呼び出された。

 

「北川さん、事態は考えているより逼迫していますよ。コバタさんはアメリカですよね。米国アタボックも資金繰りにおわれているようですね。ご存知ですか?」

 

北川は突然の情報に耳を疑ったが、最近は米国出張が以前よりは多過ぎるし長すぎる気はしていた。

 

「いえ、そんな話は聞いたことも有りませんが…」

 

「御宅の専務の久坊さんはどうしていますか。彼は一定の事情を知っているはずですが…」

 

久坊が社長不在時にはコバタの代行として全ての日本業務を取り仕切っている事は間違いない。

 

「帰って聞いてみますが、恐らく、彼は社長の腹心として一切会社の実情などは私には語らないでしょう」

 

「北川さん、株主としてもちろん相当の調査をさせてもらいましたし、久坊専務にも確認はしております。コバタさんは米国から、全て久坊に任せているので久坊に聞いてほしいの一点張りですから。そして久坊さんはほとんど何も喋ってはくれません」

 

「そうなんですか?それで私が呼ばれた訳ですね?しかし私は残念ながら役員でも有りませんので、どうしようもないのですが…」

 

北川はそのあと驚いた事実について聞かされる事に成った。

 

 「コバタさんは既に相当金額を米国に逆送金しているようです。もちろん日本の実情も既に資本の食いつぶしになっているわけで、アメリカでも同様の事情があっての日本への逆上陸による起死回生を図られたのかも…と今となっては想像せざるを得ません…」

 

北川は呆然としつつ

 

「今日はこのまま帰りますが、近々改めて必ずご相談に伺います」

 

という事で深く頭を下げてNP証券を後にした。 

 

NP証券はコバタの企画に感動して、日本において20億円以上ものベンチャー資金を資本として集めている。

 

NPサイドから考えれば、投資金額としては多額とは言えないかも知れないが、もちろん当該担当役員としては頭の痛い大問題となってしまう事に違いない。

 

河野は担当はNPの副社長というように聞いていた。サラリーマン役員を経験した河野が考えるには、これはNPにとっても誠に頭の痛い弱った事案となる事は想像に難くなかった。

 

北川は多分即日に緊急相談事項として慌てふためいて河野の自宅を訪問した。

 

河野は先に息子の退職と共にその後を心配し、当初の胡散臭さや、常軌を逸する社長の言動を聞くにつけ早い離脱を視野に入れるべきでは…と彼にアドバイスもしていた事による。

 

北川を含めて誰一人コバタに物言える人物がいない。専務の久坊も然りであるが、彼はきっとアタボック及びコバタの現状を理解していたのだろう。彼がアタボックと心中できるくらいにその技術を理解し、コバタにも心酔している事は間違いない。

 

しかし、先ずはNP証券側の方針と事実確認がどの程度のものであるかという事である。河野としては、サラリーマン役員の強みも弱みも心得ているつもりで北川に気軽なアドバイスをするしかない。まずは大株主の意向確認が最重要である。

 

NPが、もしアタボックを潰す又は整理する意向であれば、改めて北川を呼び出す必要などない無いはずである。何とか策はないかとNP側が相談してみたのは、

 

日頃の北川を見て一定のリスペクトを彼に持っているに違いないと河野は興味本位な深読みをしてみた。