水色の扉の向こう側 | premierスエマツナミのブログ

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家から歩いて10分ほどの場所にひっそりと佇む水色の扉のお店

「水色食堂」

目立った看板はなく
柔らかい灯りがオープンの目印。

扉の向こう側には
今夜もさまざまな出会いが繋がっていく。

 

 

 




物静かに食材と真っすぐに向き合う僧侶のようなご主人と
媚びることなく飾り気のない、正直な笑顔の奥さんの、若いご夫婦が営むフレンチ食堂。

ご主人が創り出す季節の美しいお料理とソムリエの奥さんが選ぶワイン。
何度でも通いたい特別なお店です。

初夏の夕暮れに主人と伺った時のこと。
いつものカウンターの奥に座りまずはビールを注文。
胃袋と相談しながら今日のキュイジーヌを選ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 
 

 
 
 
 
 
 
 
 


ひとつ椅子を隔てた隣りの席に、ご常連らしき品の良い白髪の男性がひとり、店主と時々言葉を交わしながらワインと青いストウブ鍋のフレンチなモツ煮込みを楽しんでおられた。

 


だんだんとお客が増え、一人で料理を切り盛りする店主は忙しそうにいくつもの料理を仕上げていく。
店主の頭の中には全ての料理の青写真が一瞬で写し出される。
1ミリの無駄もなく動く手は、店主の中性的で穏やかな顔相と小綺麗な坊主頭と相まって、まるで神々しく動く千手観音のように見えてくる。
カウンターの向こう側で繰り広げられる立ち回り姿に感嘆し、私達は会話を忘れてお酒がすすむ。


 

 

 



一瞬店主の動きが止まり、優しく訴えかけるような目で私達をじっと見て
「陶芸とかご興味ありますか」
と、額の汗を拭いながら唐突に言った。
「陶芸の先生なんですよ」と、お隣に座る男性をさり気なく紹介してくれた。
手が離せなくなり、おひとりさまの男性を気遣って私たちとの会話へと導く。

陶芸には私も主人も大変興味があり、機会があればやってみたいと前々から思っていた。
互いに自己紹介をし合い、陶芸を通じて話が弾む。
店主も安心した面持ちで料理を続けた。


ふと、その男性が着ているシャツに目が留まった。
見覚えのあるシャツだった。
胸元のポケットに、長く垂れ下がった耳の可愛らしい犬の刺繍。
白地に薄い黄色と明るい茶色のチェック柄が爽やかな長袖のシャツ。

生前、私が父の誕生日にプレゼントをしたシャツと同じものだった。

父は、以前私が営んでいたお店へ来る時に、よくそのシャツを着てくれていた。
少し照れくさそうに。

休日にふらりとやって来て、カウンターの隅で物静かに、美味そうにビールを飲んでいた。
どこまでも温かく、穏やかな笑顔で私たちを見守るように。


そんなことを思い出しながらデザートまで堪能し、帰宅して気持ちよく眠りについた。

その日不思議な夢を視た。
地平線の見える広く青い海と、青く澄んだ空に虹がかかる夢。

幸せな気分で目を覚まし、しばらくぼんやりとしながら時計に目を移すと、はっと、今日は父の命日であることを思い出した。
父は5年前の早朝に天へと旅立った。

そうか。
昨夜は父が会いに来てくれたのだ。
偶然とはいえ、そんな気がした。

見えない何かに包まれているような。
体の底から温かさを感じた。



時として、こうした不思議な巡り合わせと遭遇することがある。
父もまた、思いもよらぬ形で私たちへと想いを伝えてくれているのだろうか。

水色の扉の向こう側。

飾らない店主ご夫妻の想いがお店の隅々に広がって
想いと想いを繋げる。

たくさんの奇跡を起こしながら。

水色食堂にて。

5月の花を添えて。