これはfictinです。むかしむかしあるところに。それはそれはかわいらしい、おんなのこがおりました。まいにちまいにちがっこうと寮の往復だけの毎日に、とても退屈したので、あるところにアルバイトに出かけました。きっと、そこには、たくさんの情報と、洗練された大人たちがいっぱいがいるに違いない…、と。ところがどうでしょう。6階のその上のプレハブみたいな違法建築(?)の大部屋には、ハイチュウを食べ散らかしたうえ、ソファで口あけて寝ている御仁から、来る日も来る日も、アンパン齧りながら受話器片手に、おしゃべりばかりしているひとまで。え~、紳士はどこ?トレンチコートを颯爽と着こなし、確か昔のドラマにあったよねぇ~、芦田伸介さんみたいな渋~いひとは??。ただし、ず~と後になって、件のハイチュウの方の“今日のノート”は見かけによらず、繊細なタッチが光る素敵な文章だったし、アンパンのおじさんは、パソコンのゲームを教えてくれたりもし、黒縁の眼鏡とその野太い声で、きっと電話一本で話せる相手が随分とたくさんいたのだ、とわかることになったのですが…。
あと、国際関係法のテストさえOKならば、卒業確定とわかった彼女は、厚かましくも教授のところに出向き、正式の発表前に可・不可を教えてください、そしたら、1ヶ月の旅行に行けるんです!、と。もし駄目なら、手札は屈辱の2連敗中の株式会社法しか残っておらず、冷や汗ものだったのだが、果たして杞憂に終わり、無事、機中のひととなった。アメリカ4都市とヨーロッパ1都市、ただし空いてる路線を使うため、いつも経由だらけ、欧州からの帰路ももちろん北米経由という、(時差的)殺人スケジュール。でも、破格の値段のチケット片手に。五輪開催の為に設けられた事務所を除く3つすべてのオフィスをアポなしで、訪ねるという無謀な計画も胸に。はたして、さいごに訪れた首都のオフィスには、留学中でアルバイトしている同年齢の女性がおり、たまたまいた数人の先輩方もこころよく迎えてくれた。そのなかに、お髭がマークの小柄なおじさんがいて、「ごめん、ちょっと名刺きらしててね。でも渡したいからなぁ~」と、印刷所に出す、薄いブルーの原稿用のをくださった。なんて、ユニークな方、と彼女は思った。その後、所属先の中学生が、現地で生体肺移植をしたときに、問い合わせをしたら、丁寧に回答くださったのが、偶然にもその方だったのだが…。
ここだけの話。ときどき、ほんのときどき、たばこに火をつける。その香りが恋しくてたまらなくなったとき…。でも、一箱が半年近くもあるから、ほとんど味はしなくなる。でも、ひとまえではすわない。どんなに綺麗なひとが吸っていても素敵に見えたことがない…から。これは、ほんとは殿方の嗜みなのだと、彼女は思っている。78で鬼籍に入った父親は、恐らく二十歳になる前から吸ってたと思う。ものごころついたときには、希望という意味のロングのを。のちに、やっぱり軽いのするかぁ~と、少し寂しそうに、相棒という意味のに変えた。母親の小言に加勢し、ついに気持ちよく吸わせてあげられなかったのを、彼女はいまでも悔いている。たばこのなんたるかも知らずに、世論の大勢に乗ってしまうとは…、なんて浅はかだったんだろう…、と。なんでも、女性の場合はそれまで吸っているひとが止めても、女性特有のホルモンの影響とやらで、発病率はそれほど下がらないらしいが、男性は、明らかに下がる。でもね。彼女はこっそり思っている。無礼を承知で。たばこを吸わない人で、カッコイイひとを見たことがない。と。どこか佇まいと風情がさびしい、というか、空間と時間をもてあましているように映る、というか。無論、吸う人がみんなカッコイイわけでもないけれど…。いつか、スポットライトが美しいホテルのバーカウンターで、葉巻をとロックを片手に、ラフな格好で小説をひとり読んでいた、外国の紳士は、とても素敵だったし。ところで。浅薄な思いつきで取り出した話題。少々思いやりに欠けていたかもしれない、彼女ははたとなり、もしそうなら、ごめんなさい、そう思っている。もちろん、これらは、すべてfictionですが…。