この街にだけあって、他の街にないものが、ある。と、ある作家が書いていたっけ。どうして、そんなに惹かれるのだろうか。雰囲気。洗練された佇まい。落ち着き。気品。誇り。静けさ。華やかさ。上品さ。色あい。だろうか。ひとことでは、とても言えない。でも、何か他とは違う魅力、存在感があるのは確か。変わらない日常を、頑なに守っている日々の生活に、つかの間、新鮮な風を通したいな、街を歩きたいな、そんなことを思うとき、真っ先に頭に浮かぶのは、確かにその街である。なぜだろう。その作家は、街は区画でもビルの数でもなく、やはり人であり、その街にあるのは、精神のようなものではないか、と言っている。まだうっすらとしかわからないけれど、多くの人に培われ、育てられた空気のようなものだろうか。つまり、遊びのこころ、だろうか。


確か、名前はコリン・ラッフェルとかいったと思う。テムズ川沿いの風景を描き続けているらしい。恐らく、黄昏どきのシーンを切り取ったのだろう。なんともいえないやさしく、ぬくもりのある色合いが、そのタッチが、とても印象的だった。私が好きな色は、これ。といいたくなるようなサーモンピンクだったからだろうか。偶然、街を歩いていて出逢った。ひとは、ことばを求めている。例えば、思いがけず受けた親切も、やさしさも、無言で伝わる気持のようなものも、やっぱりそれはことばであり、ことばで実感しているのであり、ことばで感じていることなんだ。伝えたい何かがあって、その想いの軌跡を、ひとの考えた(事柄の)軌跡を知りたいと、願うのもやはりことばなのだ。当たり前といえば、当たり前なのだけど、改めて深く感じ、想いをなぞるひとときがあった。