夏は日暮れ時、もいい。ヒグラシが盛んに鳴く頃。「今が夏ですよ。早くしないと夏が終わりますよ。」と言っているかのように、聞こえなくもない。かな。子供の頃、夕方、風呂あがりなどに涼んでいると、庭の森の木々の間から一斉に鳴きだすのをよく耳にした。昼でもない、夜でもない時間帯。どこか物悲しくて、どこか安堵感のひろがる、その涼感あふれる風情が、とても好きだ。音があるのに、なぜか静謐な感じ。あんまり、気分がいいので、何かに集中したくなり、好きなチームのオーダーを想定しながら、蔵の土壁に向けて一人投げ込みを始める。「ご飯ですよ~」の声が掛かるころには、すっかり汗だくで、「もう、せっかくお風呂に入ったのに~」とよく叱られてた。懐かしい夏の思い出。


無性に本に囲まれたくなるときがある。そんなときは、図書館がいい。夏休みの図書館。違う空気がある。恐らくいつもの、3倍以上の人口密度なのに、私語のない静寂感がちょっと嬉しい。こちらはいつもと変わらない日常でも、つかの間、同じ夏休み中のような気分になる。そして、あと一週間頑張れば夏休み。少し嬉しさの拡がる時でもある。読みたい本が、幾つも幾つも目の前に現れる中で、どれを選ぶかも愉しみのひとつ。「読んだほうがいい」とか「読まなければいけない」は、悉く無視するとしても、同じ「読みたい」にも、いろんな種類と程度がある。無論、そのときの気分もある。組み合わせも大事だ。食べ合わせならぬ、読み合わせにも気を配りたい。そんな自分の内なる声と相談しながら、書棚の背表紙たちを見つめる。これも至福のときのひとつ。


初めて「陰翳礼賛」の一節を読んだのは、高一の夏だったろうか。参考書の中で。和のこころを、日本風建築の美意識、佇まいを通して紹介していたように思う。(正確には覚えていないから、自信ないのだけれど。)「いとおしい日々」。その背表紙を目にしたとき、「なんていまの気分にぴったりなのでせう」、手を伸ばさずにはいられなかった。ページを捲ってさらに歓心。和の趣、佇まいを素敵に伝える文と写真の数々に、忽ち魅せらた。やっぱり木の家が好き。いつの日か着物の嗜みがもてるようになれたら。そんな日ごろの想いを刹那、慰撫してくれるタイトル、タイトル。繊細で、どこか隠微な色香と風情をたたえた装丁。この本を主軸にほかの本を選ぶことになったのは言うまでもない。和のこころを学ぶ。この夏のテーマにしてみよう。もう明日は立秋だけど。。。