叔母の入院が長かったので、度々親族が集まりました。
その度に父は楽しそうに話をしていました。
その中で、色々分かった事があるのです。
一つは、「神田生まれ深川育ち」の事。
もう一つは、戦争の事。
私は、結婚してから久しぶりにテレビで『戦艦大和』の映画を見た。
若い頃に見た時は、何も感じなかったのに・・・戦艦大和が無線傍受されている事に気がつかず、無残に撃沈された事を知り・・・ショックを受けました。
それ以来、戦争の番組ばかり見るようになったのです。
その中に、『インパール作戦』と言う、誰が聞いても馬鹿馬鹿しいような最悪な作戦がありました。そして、驚く事に・・・何万もの兵士を無駄死にさせた張本人が、まだ生きていたのです。呆れ返って開いた口が塞がらないどころか、怒りに震えました。
子供の頃、父がいつも何か起こっていて、ブツブツ独り言を言っていたのが、まさに!このインパール作戦の事だったのです。
「トラックを作っては壊し・・・バカヤロウ!!・・・バカヤロウ・・・」
父は、16才で家族が止めるのも聞かずに海軍に入隊したそうです。
そして、父の船が爆撃にあい・・・甲板近くにいた父は、「沈む!!」と思ったとたん海に飛び込んだそうです。
そして、遠ざかる船を見た時、沈没しつつある船の丸い船窓から、仲間が顔を出し助けを求めていたと言います。
船底にいた兵士たちは逃げそびれたのです。
そして不運にも、あの船窓は・・・頭が出るぐらいの大きさしかない。
今更ながらに、あの窓の意味が分からなくなりました。
昭和30年代、戦後まだ10数年では、戦争の悪夢から覚めてはいなかったのです。
多くの人達が、今もなお、戦時中の地獄を忘れていない事を考えても、当然と言えるでしょう。
怖かった父の謎が、ここでまた解けたのです。
一つ一つ、疑問が解けて・・・父を少しずつ理解できる事。
殆ど会話の無いままできた私にとっては、父の知られざる一面を理解してあげられたような気がして・・・表現が難しいのですが、心が安らいだのでした。 終
