フリーターをしていた20代の頃。
新聞の求人広告を見ていたら『CMなどに出演する動物の世話をしてみませんか?』と言う求人があった。
以前、この仕事の紹介番組を見てから興味を持っていたので、場所が相模原で遠かったのですが面接を受ける事にした。
駅前のサテンで会い、大体の説明を聞いた。
「電話での問い合わせはあるのですが、ここまで来てくれたのは貴方だけです。これもご縁なので、是非ここで決めて欲しい!!」と言われました。
★ここと青山にある知り合いの事務所に電話だけ置かして貰っているので、行き来きして欲しい。
★この近くにアパートを借りるので、そこから通勤して欲しい。
★アパート代はこちらで払うので、給料は月5万円。
内容を聞いただけでもハードだな??と思いつつ、とにかく動物を見せて欲しいと頼んだ。しかし、動物を見せるのを躊躇して、中々OKしてくれない。
このままでは私が帰ってしまうと思ったのか??案内してくれる事になった。
車でどの位走っただろうか?? まず入った所に、馬なのかロバなのか??が繋がれていた。 雨が降った後なのか?地面がドロドロである。
そこに、アヒルや鶏が放し飼いになっていた。
離れた所には大型犬が数匹、短い鎖に繋がれていた。
どの犬も、皮膚病で毛が抜け落ち、皮膚が爛れていた。
立つか座るか位しか出来ない鎖の長さなので、動きが自由に出来ないでいた。
その犬達の様子を見ただけで、呼吸が苦しくなってきた。
すると何処からか、3才位の女の子が「お姉ちゃん!」と近寄ってきた。
娘だと紹介され、手を繋ぐようにして室内へ入った。
そこでは、白衣を着たお腹の大きな奥さんが、暗い顔をして黙々と檻の中の汚れた新聞紙を取り替えていた。
この檻にいる動物達は、言う事を聞かないのでCMには使えないのだという。
どの子達も、体ギリギリの小さな檻に入れられていた。
私は、自分が小さな檻に入れられたかのような息苦しさを、また味わっていた。
そして、ある猫に目が釘付けになった。
真っ白なペルシャ猫が、檻に体を擦り付けて「どう??私、可愛いでしょ?」と言わんばかりに大きな目を私に向けてきた。
後ろを向いた猫の肛門に、カラカラに乾いたこぶし大の大きな糞の塊が、長い体毛に絡み付いて、今度排便をし引っ張られたら、お尻の皮まで剥がれ落ちんばかりに引っ張られていた。
もォ~~私は、その場でしゃがみ込みそうになった・・・・今すぐにも、猫を檻から出して挟みで糞を取り除いてあげたい衝動に駆られた。
頭はそのことで一杯で、社長の声など聞こえないほどだった。
取り合えず、「お茶でもどうぞ・・・」と言う事で座敷に案内された。
「どうですか?ここで返事を貰えませんか??」
私の隣では、女の子が「お姉ちゃん・お姉ちゃん」と可愛い顔を向けてくれるのだが。
奥さんの大きなお腹を見ても、動物の世話だけでは終わらないのは明白。
「一応、考えさせて下さい」と頼んだ。
寝ても冷めても、あの猫の顔とお尻。可哀相で可哀相で・・・・。
しかし、どう考えても、あそこでは働けない。
だけど、檻の掃除だけでもしに行った方がいいのでは??考えても結論が出ない。 そんな時 従姉が「だめよ!そんな所、下手に手伝っても動物が可哀相よ!動物の管理も出来ないで!!営業する資格ないわよ!!」と言う。
掃除に行ったら、もう戻れないくなるかもしれない・・・・結局、断りの電話を入れた。
その昔話を、ロスのゲイ君にメールした。
「貴方は何でそのまま帰ってきたんだ!!何で警察に行かなかったんだ!!」と私に怒りをぶつけた。
当時の私だって、動物愛護団体とかに相談した方がいいのかと迷った。
しかし、お腹の大きな奥さんと娘さんはどうなる??と考えたら連絡など出来なかったのです。
その直後、ニュースを見て驚いた!!『相模にある、CMに使う動物を扱うプロダクションが、動物虐待の容疑で摘発されました!!』と言うのである!!!
ゲイ君から「ニュース見ましたか?!!相模って、貴方が話していた所じゃないんですか??」とメールが来た。
確かに場所はそうだけど・・・だって、私が面接に行ったのは20年以上前の話です。
テレビに写った社長らしき人の顔も忘れている??
「まさか・・・???」と言う思いで・・・・「違うと思うよ??」とゲイ君に言った。
やっと忘れた、あの猫ちゃんの大きな瞳を、ここでまた思い出すことになるとは思いもしなかった。
