「立ちどまらなければ ゆけない場所がある」
長田 弘
私はもう、燃え尽きました。
絶対に間違うことの出来ない5月のピアノの発表会で、大失敗をしてしまったのです…。
それは遡ること2ヶ月前。
心の底から尊敬し、とても信頼していた私の先生が今回の発表会をもってピアノ教室を退任する‥
初めてそれを聞いた時、本当にショックで頭の中が真っ白になりました。
しかしそれは先生が自らお決めになったこと。
全てを受け入れ、そしてせめて最後の発表会は最高の演奏をして感謝の気持ちを伝えよう‥
そう決めたのでした。
ベートーヴェン作曲 『エリーゼのために』
偶然にも今の心境を表したかのようなこの曲は、先生が以前ピアノリサイタルのアンコールで弾かれた、私にとって大切な思い出の曲。
一般的には小学生でも弾ける初級者向けというイメージがありますが、実際はペダルやタッチに物凄く繊細さを必要とするとても難しい曲なのです。
あるプロのピアニストが『エリーゼのために』について、こんなことを言っていました。
「この曲を深く味わうには同じベートーヴェンのピアノソナタ『熱情』を弾きこなすぐらいのレベルが必要だ」
(因みに滅茶苦茶難しいことで知られるヤマハのグレード試験において、まず普通の人では受からない6級の課題曲にこの曲が指定されています)
私はとにかく、この『エリーゼのために』を弾き込みました。
正確には数えていませんが、おそらく2千回近くは弾き込んだものと思います。
それでも先生のような完璧な演奏とは程遠く不安も多少あったのですが、ただやれることは全てやったつもりでした。
それなのに‥。
言い訳は出来ませんし、誰のせいにも出来ません。
間違えたのは全部自分の責任です。
しかしなぜ間違えるのか、その原因が今回はっきりと見えました。
私はピアノと共に歌いながら演奏しているのです。
そこに人の話し声や物音が入ってくると、それが不協和音となり鍵盤感覚を狂わせ、頭の中の演奏をストップさせてしまうのです。
残念なことに、今回私の耳に届いた話し声は、私の演奏が終了するまで止まりませんでした。
(名誉のためにお断りしますが、私のピアノ教室では子供達の発表会も含め、人の演奏中に話しをする人などほとんどいません)
私はもう、燃え尽きました。
しばらくの間、ピアノもブログも休ませて頂きます。
とは言ってもピアノ自体を止める訳ではなく、練習も続けるしピアノ教室にも通います。
今年の後半からはチェルニーの30番やブルクミュラー『18の練習曲』を始める予定です。
しかし、今は立ちどまって思い出に浸っていたいのです。
いつかまた、笑ってピアノが弾ける日まで…
先生との最後のレッスンの日、私はシューマンの『トロイメライ』を弾きました。
私の大好きな映画、『私のちいさなピアニスト』のような素敵な思い出を残したかったのです。
以前先生は私の『トロイメライ』を「柔らかい」と褒めて下さいました。
そして今回、「この曲も弾き続けて下さいね」と仰って下さいました‥。
先生、たった2年間という短い間でしたが本当にお世話になりました。
そして、本当にありがとうございました。
ご結婚おめでとうございます。
