8 最終話


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謎女はこのマンションの住人であった!!


しかし完全に不審者として僕は扱っていて、更に調査の
資料にならないか?と、結果的には謎女を盗撮する

形となった。

しかも盗撮だけではない。ICレコーダーとか、妙に

手馴れてる感がおそらく僕にはあっただろう。

そしてその次には、謎女の親がどんな性質か?

と言う事がとても問題になろう。

「何なんだ、あんたは!!?嫁入り前のうちの娘を

コソコソと盗撮するようなマネをして…!!」系の親だった

場合、平日昼間でもあるいは深夜でも、無精ひげ

ヨレヨレのスェット姿で出没し、だらしなく高齢無職に

しか見えない僕だ。
また調べれば、過去にはシャレにならない、女性の

人権を蹂躙するようなエロ漫画(現在なら発禁モノ)を

したためていた、という事になると一気にこちらの

立場は逆転する!!

今までは探偵気取りだったはずが、今度はこちらの

方が容疑者になり得るのだ…!!!

一体理事会ではどんな話になるのだろうか?
僕が呼ばれた以上、間違いなく焦点は謎女の件で

あろうし。
その場には前回のメンバーに加え、謎女とその両親も

参加するのだろうか?
「理由はともあれうちの娘を隠し撮りするなんて!!」と

騒がれたりでもしたら、いよいよ僕にとっては窮地も

予想される…
だがそうは言われても、そもそも謎女を含め、この

マンションの住人全員を把握している訳ではない。

他の人だって知らない住人くらいいるんじゃないだろうか?

とは言え、理事長に「あんた毎日毎日部屋にこもって

いるのに近隣の人の顔も知らないのか?」と突っ

込まれないだろうか…??

頭の中でこの後展開されるであろうディベート…

と言うよりは僕が被告の裁判の状況・交わされる

会話を想定した。
しかも被告が弁護人を兼ねねばならぬのである!!

そこで、最たる焦点【謎女がここの住人だと分っていたら

俺とて盗み撮りなんかしなかった!】で切り抜けるしかない

と判断した。
あっちの論を封じるにはそれしかないし、実は理論

武装する上での材料はあるのだ!!
もし理事長と言い合いになったら以下のように切り

抜ければ良いのだ。

理事長「君は彼女がここの住人かどうかも知らなかったのかね?」

 

僕「ええ、知りませんでした。そしてもし知っていたら不審者扱いしませんでしたよ」

 

理事長「毎日部屋にこもっているのに?」

 

僕「はい。
 では逆に理事長さんはここの住人全員の顔を知っているんですか?」

 

理事長「私は理事長だから知ってて当然だろう」

 

僕「さすがですね。だとしたら謎女はもう一人いる事になりますよね?」

 

理事長「?」

 

僕「確か最初にお会いした時に、謎女を見た、とおっしゃいましたよね?
僕が見た謎女はここの住人だったので、理事長さんが見た謎女は別の、非居住者の謎女と言う事になりますよね?ではその人をまず探しましょうよ?」

 

理事長「………………!!」

……完璧だ!!

5で「自分も謎女を見た」と理事長は言っている。
僕はその信憑性を未だに疑っているが、本人が

勝手に申告したんだから、そこを突くしかない。
表向きの正義感の強い理事長、城主気取りのマンション愛

を逆手に取ってツッコんでやる!!
ひいてはそれが僕自身を守る事になるし、仕事とは言え

あんなマンガを描いていた事がバレたりなんかしたら

まずいからな~

理事会が執り行われている会議室の扉を開けると、既に

前回の理事会メンバー5人全員が揃っていた。

そして僕にとっては幸いな事に、謎女とその両親は

いなかったが、遅れて入って来た僕に10の瞳が一斉に

向いた。
また他のメンバーはともかく、理事長は妙に複雑な顔を

していて、おのずと僕の緊張感も高まった。
僕が席に着くと、理事長はあの後から今までの顛末を

話し始めた。

 


数日前…理事長は管理人(管理会社社員・非住人)から

その話(前回)を聞くと、その足で謎女の住む40X号室に

おもむいた。玄関口での立ち話だったが、謎女の母親が

出てくると「お宅の娘さんがマンション中を徘徊して、

数時間も階段エリアに潜んでいる。

それに不安感を抱いている住民がいる。」と言うような

事をやんわりと話したらしい。

すると母親は奥の自室にいる謎女に向かって「あんた

そんな事しているの!?」とキレ気味に怒鳴った!!
それに反応した謎女もまたキレ気味に、ドカドカと玄関に

やって来て「だったらあの人はどうなのよ!?」と、何故か

僕の批判を始めたというのだ!!
たしかに、僕は隣の奥さんをはじめ、ここの住人の数人

にしか自分の仕事や立場、毎日昼でも深夜でもブラブラ

出来る理由を話していない。
だが謎女に否定される覚えはない。
更に理事長が「そのような事はなるべく止めて欲しい」と

またやんわりと続けると、母親の平謝りの後、母娘の怒号の

言い合いに発展し、謎女はまた理由なき僕への批判を

続けたと言うではないか!!
そうなるとさしもの理事長も、割って入る状況でもなくなったと

判断し、「以後気を付けて下さい」と残して扉を閉めたとの

事だった…

謎女は当初の僕の予想とは大きく異なり、間違いなく18歳

以上20代前半で、おそらく学生かフリーター、少なくともまだ

就職していない可能性が高いと思われた。
そしてあの徘徊自体もなるべく家にいたくなかったからの

行動で、母親との怒号のやり取りからも、家族とは決して

関係が良好ではない事、1分でも長く家にいたくない事を

察せられた。
階段で数時間も時間をつぶすくらいなら、喫茶店、いや

その金も惜しいなら市の図書館ででも過ごせば良いモノを…
おそらく家は出たいが、そのための具体的なプランも金も

ないのだろう。
そーゆー話だと、何となく謎女の気持ちも解る。
そりゃ、極端に家族と顔を合わせたくない時期だって人生の

中にはある。
だったら最初からそう言えよ!俺はそっち方面にはいくらか

理解あるし…

さしもの理事長も心なしか疲れて、禿頭ににじんだ汗が

光沢を放っているようにも見えた。
「まぁ今回は最悪の結果は招かなかったから良かったよ…」
それは僕にとっても同じだった。こっちも通報者から変質者に

一気に転落する可能性すらあったし!!!

「ただこれに懲りず、今後もどんなに些細な事でも、何かしら

異変があったら勇気を持って声をかけたり、理事会に報告して

欲しい。
ここはみんなで暮らす、みんなで守る、みんなの住まいなんだから。
今回はむしろ誤解で済んで本当に良かったし、通報にもとても感謝

してますよ…ありがとうございます」と理事長は驚く事に頭を下げて

僕に言った!!

理事長…
偉そうな小人物、虚勢を張りたいちっぽけな井の中の蛙、明確な
勝利をつかめなかったダメ人生の終わり近くに、とりあえず何でも
良いから権威が欲しいザコが、人生の最後に落ち着いた現在の

立場……………

全然そんな事なかったじゃないか!?

僕は、薄っぺらい人間相手なら、5分も会話すれば相手の浅さが
自分には見破れると過信していた!!
しかしそんな事はなかった…
この人ちゃんと立派に、理事長の責任感で考えているでは

ないか…!!

はい!と僕は返事をすると、自分の観察眼に思いあがっていた

事を恥じた。
せめてもの救いは、その態度を全く出さなかった事に尽きる…

そしてその後謎女を見る事は一切なくなった。間違いなく徘徊を

止め、平穏が訪れた。
どっちにしろ家族仲が悪い謎女家だが、関係改善したのか?

あるいは時間をつぶす別の場を見つけたのだろうか?あるいは

一人暮らしを始め出て行ったのだろうか?
結局それはこちらの知るところではなく、何十世帯もある個々の

家庭は、仮に隣接していても完全に他人だ。
昔は突然の夕立で、留守宅の洗濯物が雨に濡れていたら、

お隣さんが勝手に家に上がって、取り込むような事もあったと

言われているし、不在時の小包等もよほどでなければ再配達

システムはなく、隣近所に預けられた。
隣近所とのベタベタな付き合いと冷めた付き合い、結局どっちが
良いのか解らないし、また間違いなく昔のベタベタには戻れない。
そしてこの希薄な連帯感の中で、だましだまし日常の安全と
保守活動を共にしていかざるを得ない事情は、このマンション

だけの問題ではなく、全てのコミュニティの課題であろう。

ただその中で僕だけは、以前よりは近隣の人を信じ、協力しよう

と思うようになり、また「俺以外全員低レベルなバカの集まりだ」

と思う気持ちもいくらか減った。


終わり