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前回の話
http://ameblo.jp/precoed/entry-10028962528.html


第一話
http://ameblo.jp/precoed/entry-10027044498.html



まず結果から書こう。

その日の帰り、僕はM美に買ってもらったギターを
背負ってはいなかった……………………………………
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楽器店に入ると気になるギターは何種類かあった。
だが実際には自分で金を払ってまで欲しい程ではない。
ギターが欲しいと言う気持ちよりも、M美に如何に
金を使わせるかが重要であり、僕はさもギターが
欲しい少年のようなパフォーマンスを、M美の前で
演じる必要があった。

いや、それだけではない。
M美に何も買わせる事なく家に帰ったら、それは
普通のデートになる事を意味するのだ!!
何としてもそれを避けなくてはA子に対する示しも
付かない!!(と、恋愛経験の少ない僕はそれをかなり
意識していた。)

タイムリミット1時間以内に、人を悪徳商法とかに
陥れる狡猾なこの悪女に、高額の物を買わせなきゃ
いけないのだ!!

それはあまりにも体験した事のないミッションで、
もちろんこの時が初めて。
しかし同時にまた生涯最後だろうと思う…

店内を意味もなくブラ付く。
いつもは欲しい物だらけなのに、この時ばかりは何も
思いつかない。


とりあえず僕はめぼしい物を店内で試奏した。
正確には覚えていないが4~5万クラスのギター
だった。
もちろんもっと高いギターも店内には何本もあったが、
15万のギターなんてハナから無理に決まっている!!

僕はまるで好きな女に告白する時のセリフを考える
ように、これから発言すべき一言一言を、優しくも
さりげなく命令口調の言葉を、ギターの試し弾きを
するふりをしながら、頭の中で考えた。

「ねぇM美ちゃん、これ欲しいんだけど買って
くれないかな?

「このギター、良い感じだと思わない?
お金出してよ~♪

どれもイマイチだ…


楽器店



いくら図々しい僕でもそこまで開き直ったセリフが
出ようはずもない…。
いや、仮に良い言葉が浮かんだとしても、だ。
頭の中のセリフと言うものは、実際に本人を前に
すると往々にしてその75%も口に出来ないものだ、
特に相手にムチャな条件を突き付ける内容の
セリフだ!!
例えば、気に入らない相手を怒鳴りつける言葉を
思い浮かべていても、いざ本人を前にすると
作り笑いを浮かべてしまうように…

時間は刻一刻と迫ってくる。
僕はどのタイミングで、どんな言葉でM美に今弾いて
いるギターを買わせれば良いのか、全く思い浮かばな
かったのだ!!



すると!!
「どうですか?」
いかにも売りたそうな店員が、ギターを試し弾きする
ふりをしながら、思考を巡らせている僕の邪魔してきた。

僕は「ど~も」と言って店員にギターを返した!!
すなわちそれは『弾いてみたけどあまり気に
入らなかったから結構だよ』を意味している…



ダメだっ!!!!


「このギター欲しいな~」とは今更言えない状況を
自分で作ってしまった!!
とは言えギターは、無理を承知の第一志望なので
まだまだ敗北を喫した訳ではない…

昔小学校の朝礼で校長センセが
『諦めたらそこで諸君達は負けるのだ。
勝負の結果にとらわれず、何度でも立ち上がる姿勢
こそが勝利なのだ!!』と言うような内容の、
お決まりの『良い話』をしたのを思い出した。

そんな薄っぺらい人生訓よりも、バカ女万単位の
を買わせる方法を、何故朝礼で教えてくれなかった
んですか!!?センセェ!!!



M美はチラッと腕時計に目をやった。

移動時間や開場入り時間を考えるとそろそろ動いた
方が良い時間帯だ。
でももし貴女にサッカーの審判のような義侠心が
あるのならば、僕に反撃のロスタイムを与えては
くれないだろうか??

M美が口を開く前に、僕は次の一手を打たなければ
ならない!!
僕は先ほど見てちょっとだけ気になっていた高性能
ピックアップ
(ギターのパーツ)の前に行くと
M美に言った。


ピックアップ解説



(ちなみにこれ と同じメーカーのピックアップ)
http://1484.bz/c/15122/


「あ、お、お俺、これが欲しい
んだよね~。
でさぁ…」




つづく