今でもB病院での事を思い出すと
なんとも言えない気持ちになる。


初診から様々な検査を経て生検手術を
受ける為入院することになった。

病室はどうするかとなって
本人の希望もあり個室を希望した。
診療科の病棟の看護師長さんに
病室を見せて頂いた時に
個室だけれど眺めが良くないのと
年配の患者さんが多いので病棟自体が
少し騒がしいかもしれないと聞いた。

できれば少しでも良い環境をと思い結局
診療科の病棟ではない特別個室を選んだ。
そこにはもうひとつ大きなメリットがあって
諸悪の根源の勝手な面会を防ぐための
十分なセキュリティがあった。

でもこれも間違いだったのかな…。

眺めも良く静かな個室。
付き添う人間にとっても楽だった。

最初の検査入院での記憶は…

術前に麻酔の説明を丁寧にしてくれたので
局所麻酔ではなく全身麻酔にしてもらったこと。

手術が始まり手術室の前で待っていた私達に
医師から術中診断で腺癌だったと告げられたこと。

次の記憶は術後息子が病室に戻って
しばらくして医師が来てどうしてか私が
廊下で先に話をしていた。
やはり最初の診断の通りなんですか、
息子がその事実に向き合えるのか
不安でたまりませんというような事を
話したと思う。
医師からは「本人はわかってると思う」
と言われた。
そしてそのあと医師は病室に入ると
息子に向かって術後の容態を尋ねたあと
唐突に「がんだったよ。」と告げた。
まさかそんな形で告げられるとは
思っていなかったので絶句した。

息子は実はその時まだ麻酔が覚め切らず
朦朧としていたのだが、医師の言葉を聞いて
軽く頷いている様子だった。

だから麻酔が覚めた息子が私に
どうだったのかを聞いてきた時に
さっき聞いたけど改めて聞きたいって
いう事なのかと勝手に思って
「がんだった。」と言ってしまった。
本当に私が愚かだった。
「えっ、がんなの?」と声を尖らす息子に
「がんはがんだけど、どういう状態かは
まだわからないから…。」としどろもどろで
答えるしかなかった。
どうしてあんな事になってしまったんだろう。


そのあと清拭と着替えの為に
看護師さんが来た。
看護師さんと息子が向き合う形で立ち
私は息子の後ろで手を貸せるようにしていた。
術着の前を解いた時に看護師さんの目に
何が映ったのかはわからない。
毛深い息子の下半身だったのか、
血に汚れたT字帯だったのか。
露骨に眉をひそめたかと思うと
物凄くいやそうな表情で
自分で拭けますねと言った。
私からは看護師さんの顔が良く見えたけど、
眼鏡を外していた息子には見えて
いなかったと思う。思いたい。


私が敏感過ぎなのか、鈍いのか。
よくある話なのか、あり得ない話なのか。


でもこの先にこの病院で感じた様々なことを
私には息子に謝ることしかできない。
息子の心を痛める結果になってしまったから。
ごめんなさい。
本当にごめんなさい。