それは突然やってきた。
仕事中の携帯へ2件の不在着信。
どうせまた下らない電話だろうと思い、そのうちかけ直そうと気にも留めなかった。
そして3度目の着信。
2013年11月6日22時19分。
僕はその時渋谷のビストロで仕事終わりのワインを楽しんでいる最中だった。
何かが…違った。
ひどく落ち込んだ声の父。
何も整理がついていないような、何かあきらめきれないような、よくわからない声だった。
会話はとてもシンプルだった。
「胃の調子が悪く、検査をしたところ、肝臓ガンの疑いがある。明日また病院に行く」
僕は何かずっと見ないように、見ないようにと目をつぶっていた事実が隠しきれなくなった、そんな気がした。
きっと物心がついたころからいつか訪れる事だとわかっていたんだけど、
それがこんなにも早く来るなんて…
伏線はあった。
電車の中で心筋梗塞で父が倒れた日、
僕は神戸にいた。
電話で命に別条がないことを確認し、予定通りの時間まで現地に滞在、予定通りの新幹線で東京に戻った。
あの日、妹が電話の向こうで泣き出した事を忘れることはないだろう。
自分が冷静なのか、それとも冷たいのかよくわからなかった。
その日から覚悟はしていたんだ。「いつかこの日が来る」って。
仕事を変えるのと同時に、実家から歩いて5分の場所に移り住んだ。
何も知らない友達は皆、僕の選択をよくわからないと言ったが、
なにかあったらすぐ駆けつけられるように、それが理由だった。
その判断から1年半も経たずに僕の行動は証明された。
そしてその判断はこれから僕に色々な物を背負いこませるだろう。
「じゃあ、明日8時40分に迎えに行くよ」
そう言って僕は電話を切った。
