1.   始めに

 2017年(平成29年)11月29日、強制わいせつ罪の成立に「性欲を満たす意図」は必要かが争われた事件で、最高裁判所はこれまでの判例を変更する判決を下しました。この事案は、山梨県内の被告人の男性が、7歳の少女にわいせつな行為をして撮影したとして強制わいせつなどの罪に問われたものです。

 

2.    昭和45年判例とは

 最判昭45年1月29日判決は、被告人男性が、内妻が被害者の手引で被告人男性の元から逃げたものと信じ、これを問い詰めようとして自室に被害者を呼び出し、約2時間にわたり被害者を脅迫し、許しを請う被害者の裸体写真を撮ってその仕返しをしようと考え「5分間裸で立っておれ」と申し向け、畏怖している被害者をして裸体にさせこれを写真撮影した、という事案です。

最高裁判所は、「強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行われることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出た時は、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつ罪は成立しないものというべきである。」と判示しました。

つまり、自分の性欲を満たす目的ではなく、仕返しや侮辱の目的で被害者を裸にして写真撮影した場合は、強制わいせつ罪は成立しない、と判断したのです。

 

3.    何が問題なのか 

刑法の考え方において、犯罪が成立するのは構成要件に該当する違法で有責な行為と考えられています。そして、違法であることの実質をどのように考えるかで、学説上の議論が分かれているのです。①刑法の任務を法益保護と考える立場からは、法益侵害の惹起が禁止の対象として違法性の実質と考えます。これに対して②刑法の任務には法益保護だけではなく社会倫理の保護も含まれると解する立場からは、行為に対する社会的非難を違法の実質と考えます。

強制わいせつ罪の保護法益を①の被害者の性的自由であるとすると、被害者が無理やり性的な事項に関して自由に意思決定をする権利を害されたこと、それだけで違法な行為として犯罪が成立します。

では、②の考え方からはどうでしょうか。犯人が自分の性欲を満たすために被害者を無理やり裸にした場合、犯人においては、無理やり自分の性欲を満たそうとする気持ちがない以上、強制わいせつ罪についての社会的非難を問うことが出来ません。被害者は、結果的に性的自由を害されても、その犯人において性的に満足しようとする気持ちがなかった以上、「相手を強制してわいせつな行為をするのが許されない」という社会倫理に反することにはならないからです。

 

4.    今回の判例変更で今後どうなるか

29日の判決で、最高裁は、「性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でない」としました。つまり、性的意図が必要な場合もあれば、性的意図が必要にならない場合もあるということです。ではどのような場合に性的意図が不要となるのでしょうか。

最高裁判所は、29日の判決において、「性欲の被害の内容や程度にこそ目を打向けるべき」とも指摘しています。昭和45年の判例の事案と今回の事案とで明らかに違う点の一つは、昭和45年の被害者は成人女性であったのに対して今回の事案の被害者は7歳の少女だった点です。

近年、性犯罪の厳罰化の傾向であることに加え、児童ポルノの犯罪に関する法律が成立し、また世間の目も厳しくなっています。最高裁判所はこの現状の流れに鑑みて、今回の判断に至ったのでしょう。そうだとすれば、18歳未満の女性が被害者であれば、性的意図が不要となる傾向が強いと思われますが、今後の裁判所の動向に注目が必要です。