第六夜はこちら
バスケの試合を見に行くときは一番後ろの席に座った
特にミクの視界には入らないように、慎重に行動をした
だって絶対に気づかれるから
自分が逆の立場なら絶対に気づく
絶対に誤魔化せない
ジャンプした時に見える平らな腹
伸ばした腕
笑った顔
どうやって隠したって絶対にどこかに現れている
綾人を好きな女の子になら気づかれる
ねぇアタシ、愁君に嫌われてるのかなってミクが気にしてたぞ
この前の試合ん時も、愁も一緒にご飯行こうって誘うつもりだったんだって、さ
ほら、佐竹さんも来てたし4人で
なのに愁、何も言わずに帰るからさ~
俺がミクに叱られんじゃん
ノー天気に俺の部屋でベッドに寝そべって、人の戸棚から勝手に漫画を取り出した綾人がそんな事を言う
今この瞬間俺が綾人を押さえつけてキスしたらどんな顔するんだろう
そんな事は出来ないとわかっていた
拒まれたら死にたい気持ちになる事は分かり切っていたから
嫌われて遠ざけられるくらいなら、このまま一生気持ちを押し殺して友達として傍にいたかった
綾人の一番近くにいるのは自分だ
ミクが綾人とやっている事は大概、自分だってやっている
何ならミクよりも近しい
こうやって夏休みにはお互いの家に泊まりに行ったりしているのだから
嘘つき
本当は知っている癖に
どんなに願っても、自分は綾人には触れられない事を
触れてはもらえない事を
綾人の中に入る事も、綾人を自分の中に入れる事も出来ない事を
必死で打ち消してはいたけれども
恋を知らない自分は、まだわかっていなかった
好き、という気持ちは容赦なく自分を侵食して
欲望はどんどんと大きくなり制御不能になるという事を
自分の中で醜く育った欲望はいつかコントロールを失い
必死で築いてきた関係を粉々に砕いてしまうという事を
そして「事件」が起こった
自分にとっては事件、綾人にとっては単なる事故
きっと、起こるべくして