Vol.7事故はこちら

「はっ?お前、何言って・・・」

「絶対に断るなって言ったじゃん」

簡単じゃん、キスくらい


頭が真っ白になりそうで、落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせる

こんな時に限って親も不在にしている

親いんじゃん、無理無理、も言えない


でも待て

よく考えろ

あ~、そうか、よく芸人がやってるみたいな


「罰ゲーム的、な?」

自分が女子に詰められて苦しめられたから、俺にも同じ苦しみを、的な?

愁は肯定も否定もしない

けれども


「良いよ?」

わざと余裕そうな声を出した

ベッドの上で並んで座っている愁が俺に向き直る

「して?」


愁の肩に手を置く

顔を傾けながらそっと近づける

あ~、こいつまつ毛長いのな

そんな事を考えていた、のかもしれない

唇に触れそうな瞬間

愁の唇がゆるく開いた


ただの「接触」で終わるはずだった

中学生の時に、夏祭りの帰り道でぶつかったみたいにしたファーストキスみたいな

そんな不器用な罰ゲームのキスで終わるはずだった

それなのに


自然に目を閉じていた

音を立てて触れる

傾けてもう1度

えっ?何してんの?俺

気がつくと首の後ろに手を回して引き寄せていた

舌が絡む、長くて甘ったるいキス


唇が離れて、お互いに目を開く

視線が絡み合う

永遠みたいな一瞬の静寂の後

「罰ゲーム終了!」

愁から離れて大げさに両手を挙げ、わざと大きな声を出した


「帰る」

愁はそう言って、笑顔も見せずに去った

追いかける事もせずに、ただ動けずにいた



その時の俺は、あのキスの先に何があるのか

自分の感情の奥に何があるのか

確かに知っていたから