Vol.4 過去はこちら

「あの時、ちゃんと謝ったじゃん」

そう言ったのに、愁は俺を真っすぐに見て言う

「覚えてる?損害賠償請求」

俺は再び愁から視線を逸らす


「ミクちゃんの気持ちが俺には少しわかるよ」

綾人は、ずるい

愁はそう言うとスツールから降りて、俺のすぐ隣に座った


「自分の欲望だけ満たしといて、受験があるから別れようとか

 ミクちゃんにしてみたら納得できないじゃん」

で、受験終わったあと、もう1回付き合ったわけ?


「付き合わねーわ」

その頃にはミクにはもう新しい相手がいた

「振られたんだ、ざまぁ」

「そんなんじゃ・・・」


「で、今の彼女どんな子なの?」

同じ大学?

「・・・まぁ」

「まさか二股とかしてないだろうな」

「してねーわ」

そんなにモテねーわ


「モテたらするんだ」

「いや、だから」

「浮気した事あるの?」

「いや、だから」

「あるんだ」

「ねーわ」

「チャンスがあればしたいって思ってる癖に」

「そんな事」

「綾人、誘惑に弱いもんな」


愁の視線と自分のそれがぶつかる

愁の手が膝に置かれる

小柄だけれども、それは確かに男性の手で

強く握ると壊れそうで怖い華奢な女の子のそれとは違う


やめろよ、と何故自分はその手を払わないんだろう

男同士だから?

友達だから?


「お前は俺の何を知ってんだよ」

苦し紛れのセリフに、愁がふっと笑った

「全部」

全部、知ってるよ?


なぁ、綾人

と名前を呼ばれる

視線を外せないのは何故だ


「もっかいする?損害賠償」