Vol.1 再会はこちら

明るめの茶色に染まった髪

両方の耳に光るディーゼルのフープピアス

デニムジャケット、ゆったりとしたバルーンパンツは愁によく似合ってはいるけれども


「えっ?ここどこ?」

どんどんと迷いもなく歩く愁を追いかけるようにして続くと

「えっ?」

駅からほど近いいわゆるタワマンに迷いもなく愁は入っていく

ホテルみたいなロビーを平然と抜け、エレベーターホールへと進むと、ちょうど、音を立ててエレベーターの扉が開いた


「30階」

振り返りもせずに、でも確かに俺の存在をしっている愁がそう告げる

「はっ?」

いや、だからここどこだよ、という俺のぼやきは絶対に聞こえているはずなのに答えもないままエレベーターはどんどんと昇っていく


降りた先もホテルの廊下みたいで生活感は全くない

廊下の先にある重そうなドアを開くと、愁が明かりをつけた


「いや、だからここどこだよ?」

「彼氏んち」

「はっ?」

「だから、彼氏んち」


1週間の家出先、母親がうるさいから今朝ちらっと帰ったけど

いや、聞きたいのはそこじゃない


いや、そこも気にはなっていたけれども

「いや、だから」

「あ~、今、俺、男と付き合ってんの」

「はっ?」

そんな驚く事?

愁はそう言って小さく笑うと、廊下の先にあった広いリビングのソファを視線で示す

「座って?」


ため息をついて従った

愁がカウンターの向こうにあるキッチンに消える

冷蔵庫の扉が閉まる音がして緑色の瓶を持った愁が現れる

「どうぞ」

プシュ、と音を立てて蓋があき

よく磨かれた底の丸いグラスが差し出される


「え?これ、何?」

「無色透明の炭酸水」

変なモン、入ってないから心配しなくて良いよ

愁がそう言って自分はそのまま瓶に口をつける


「いや、そういう事、言ってんじゃなくて」

「ならどういう事?」

「だから」

「男と付き合ってんのが気になんの?

 それとも、ここが彼氏んちなのが気になんの?」

両方だよ、独り言みたいに呟く


「・・・で、何でここ連れて来たの?」

気を取り直して聞く

「母さんから電話あったんでしょ?

 一応事情説明しとこうと思って」

誰かさんの元カノみたいに、母さんが綾人を監禁したら困るでしょ?