TP(膵全摘術)をするまでインスリンの注射というものを知りませんでした。どういうわけでインスリンが必要で、どんなふうに注射するのかも知りませんでした。家族を含めて周囲には糖尿病の人はいませんし、インスリン注射をしている人を見かけたこともありませんでした。

 

TP前の検査入院のとき(TPをすることに決めた検査のとき)、大部屋で向かいのベッドにかなり年配のおじさんがいました。このおじさんがなぜ入院しているのかはわかりませんでしたが、自分自身がどういう状態になっているのかうまく理解できていない様子で、先生や看護師さんたちとのコミュニケーションも通じているのか、ボケているのか怪しい感じでした。

おじさんは病院食が食べられない、あるいは食べたくない様子で、看護師さんやリハビリ師さんたちが頻繁に様子を見に来ていました。あるとき、おじさんが「食事が摂れないのはよくないから、売店で「どん兵衛」を買ってきて食べたい」と言い出しました。名案です。しかし当然のことながら却下されていました。

 

このおじさんはインスリンを打っていて(打たれていて)、「血糖値はいくらいくらだった。だったら○○単位でいいね」と言うときがあるのです。どん兵衛を食べる発想に比べてなんと現実的・実務的な思考と意識を持っているのかと驚きました。そして、この「だったら」という箇所に感動しました。「単位」というのが打つ量だというのはなんとなく知っていましたが、血糖値に見合った分量を打つのであろうし、なにか対応表があるのだろうが、このおじさんはそれが頭の中に入っているのだろうか、だとすると、ボケとか怪しいとか言うのは大変失礼な話だった、このおじさんは実はすごいのかもしれないな、とも思いました。あるいは、インスリンの単位を決めるのはさほど難しくないのかもしれないな、とも思いました。

 

このときは、血糖値の管理・コントロールやインスリンの単位数の決め方などまったく知りませんでした。今、自分自身でインスリンを打ち始めて6か月以上が経過しましたが、ようやく血糖値の日中の変動がわかりかけてきたところです。そしてインスリンの量はメモと記録を見ながらではあるけれども、だいたいこれくらいの血糖値だったらこれくらいの単位でさほど外れてはいないだろうな、という感覚が得られ始めたところです。

 

インスリン、インシュリン