『魔王』 伊坂幸太郎・著
私の勝手なひとりごとのような読書感想記事でも、楽しみにして読んでくれる人がいるようです。
なんともありがたいこと。
書きがいがありますね♪
ということで、ここ最近この作者しか読んでないぞ…という伊坂氏の作品。
今回は『魔王』です。
なんともタイトル的にホラーのようなミステリーのようなにおいがプンプンしますけど…内容としては派手な殺人がおこったり謎解きに奮闘したり…といったことはまったくありません。
確かに奇奇怪怪とした要素はありますけど、文庫の裏側、作品紹介の欄に「何気ない日常生活に流されることの危うさ。」という一節があるのですが、まさにこの小説はそういう意味では(こういうことを書いてもいいのでしょうか?)とかなり現実的な問題の真意に迫った内容が書いており、ドキドキしながら読んでいました。
ということで、作品のあらましです。
…主人公安藤は、電車の中で腰の曲がった老人を目の前に立たせておきながらどっかりとイスに座った若者を見て、(もし俺があの老人だったら、目の前の若者になんて言葉をかけてやるべきか)と想像し、心の中で言葉を発する。
すると、、不思議なことに老人が「偉そうに座ってんじゃねえぞ、てめえは王様かっつうの。ばーか」と安藤が心の中で思った言葉と同じセリフを吐き出した。
それが全ての始まりだった。
安藤は、心の思った言葉を相手が同じようにしゃべるという能力に目覚めたのだ。
それから幾人かの人物で試してみたが、皆、安藤が念じた言葉を正確に発した。
…さて作中では、まさに衆議院解散!衆参同時選挙という時代になっています。
そこで野党、未来党の犬養という人物が次世代を担う熱きリーダーとして絶大な支持を得ており、選挙では大勝する予感を匂わせています。
しかし、安藤はこの犬養はムッソリーニに似ていると直感。
国民は犬養の思うがままに誘導され、説明もないのにいいように解釈して物分かりがよく、いつの間にかとんでもないところに誘導される。
「まだ大丈夫、まだ大丈夫」「仕方がないよ、こんな状況なんだし」なんて思っているうちにとんでもないことになる、と。
しかし友人は笑って相手にしてくれず、安藤の意に反して国民たちは犬養を指示しはじめる。
そんな折、アメリカ人が日本人サッカー選手を刺殺する事件が起こり、正式な状況説明や謝罪がないことから日本国民の怒りがアメリカへと向かう。
アメリカのハンバーガーショップは襲われ、アメリカ人の家は放火される。アメリカ叩きが行われ始めた。
アメリカに及び腰な日本の政治家の中で犬養だけは、思想家の言葉や作家の言葉を引用しながら日本の未来について語る。
その断定的な口ぶりが新鮮で国民に犬養を受け入れるムードを作り上げていく。
ファシズム…いつの間にか大勢の人間が束ねられていくこと。そんな風に安藤には感じられ、犬養が選挙で大勝し日本の首相となることを恐れはじめる。
安藤やヒトラーやムッソリーニを予感させ身ぶるいする。
そして、自分の能力をもって犬養と対峙することを決意する。
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と、作品の流れとしてはざっとこんな感じです。少々長いし複雑な内容ですね。
タイトルの「魔王」に関しては、音楽の授業で皆さんも一度は習ったことないでしょうか?
シューベルトの「魔王」。
熱を出した息子を馬に乗せ医者へと向かう父親。
その父親にむかい息子が
「おとうさん!おとうさん!」と呼びかける。
そのあとのセリフは
「お父さんには魔王がみえないの?」
「魔王のささやきが聞こえないの?」
「あれがみえないの?暗がりにいる魔王の娘たちが!」
しかし父親には息子と同じものを見ることも聞くこともできず、息子の勘違いだとして魔王の存在に気付かない。
息子が魔王に連れ去られると必死にSOSを出しているのに…。
最後…ようやく辿り着いた館で胸の中の息子は息絶えていた。という内容の曲です。
小説ではこの魔王を揶揄し、いつの間にか大衆がファシズムになっていく怖さを描いています。
しかしながら
「でたらめでもいいから自分の考えを信じて対決していけば、世界は変わる」その思想の元、安藤は自分の思考を駆使し「考えろ考えろ」と自分に念じ、犬養をなんとか食い止めようと必死になる。
小説を読んでいて、2001年の参議院選挙を思い出した。さらには2005年の衆議院選挙。
あのときの自民党の圧勝ぶり。そしてそのあとの圧倒的なリーダーの国民的支持。
ある種、この小説で訴えているものに近いものがある。そう感じました。
う~ん…ちょっと暗いし難しい話しです。
一度読んだだけでは分かりづらいな。
またあとで読み返してみようと思う一冊です。
ただ、、人間、世間のムードや意見に流されやすいもの。
その中で本当に必要なことは?大切なことは?自分を見失わずちゃんと見極められる目をもっていたいものです。
印象的な安藤のセリフ
「でたらめでもいいから自分の考えを信じて対決していけば、世界は変わる」
青臭いけど、分かる気がする。
世の中はすぐに変えられなくても、自分の世界は変えられそうな気がする…。