『十字架』 重松清・著
重松清の著者は、他にもいくつか読んでいますが、
どの作品も非常に人間くささを表現するのがうまいな、と感じます。
基本的に重松清さんは人情味あふれる温かな作品を描くことも多く、
今度TBSドラマ「とんび」もはじまりますが、ああいう家族愛というものが多く作品でも見られますね。
今回のこの『十字架』
とっても重い作品です。
小説の帯や裏表紙を読むだけでも、ページを開くのがぐっと重くなりそうです。
でも、今の時代にこそ、こういった話があるべきだ。
知るべきなのだろう。と思って読んでみました。
~あらすじ~
物語の主人公、真田裕の同級生藤田俊介(フジシュン)は、中学二年の秋、自殺した。
いじめを苦にし、自宅の庭の木に首をくくって死んだのだ。
物語はフジシュンの遺書が見つかり、遺書には4人の名前が書いてあったところからはじまる。
…その一人が真田裕。
遺書には「親友になってくれてありがとう。ユウちゃんの幸せな人生を祈っています。」とあった。
そしてフジシュンをいじめたグループの中心人物二人には「絶対にゆるさない」と。
さらに、フジシュンが人知れず想いを寄せていた女の子中川小百合には
「迷惑をおかけして、ごめんなさい。誕生日おめでとうございます。幸せになってください」
とあった。
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物語の進行は、死んでいった同級生フジシュンにはもう何も聞くことはできない、という裕の心の葛藤が主で、
自分がなぜ遺書に一方的に「親友」として書かれていたのか分からない漠然とした気持ち。
さらに周囲から親友だったのに、なぜいじめを止めなかったのか。と投げかけられる視線。
それから同じように一方的にフジシュンから想いを寄せられて、自分の誕生日を命日として死んでしまった彼にどういう気持ちでいたらよいのか気持ちの整理がつかない小百合。
中学生~高校生~大人へ…と移り変わり季節を裕と小百合は、ずっとフジシュンを胸にそれぞれに想いながら過ごす日々をおくる。
…この物語は、単にいじめられていた側の遺書や手記といったものとは違います。
いじめを見ていた同級生「真田裕」の傍観者の立場として描かれているものです。
いじめを苦に自殺をしたフジシュンの人生はそこで止まってしまった。
だけどその時同じクラスで時を過ごした同級生はどんどん成長していく。
その過程を丁寧に描き、同級生たちの揺れる心情やフジシュンに対する想い。
さらには、フジシュンの両親とのかかわり、学校やマスコミといったものも巻き込んで、
いじめられた子が死んでしまった後の周囲人たちの人生を描いてます。
現在、テレビでも連日のようにいじめや体罰のニュースがありますが、死んでしまった本人の人生はそこで止まってしまっても、残された周囲の人たちの人生は続いていきます。
そこに本当の葛藤や重い十字架があるのではないか。
その十字架は降ろすことが出来ない。一生背負い続けなくてはいけないものになるのではないか。
この物語にはそんな筆者の想いが込められているような気がします。
本書より抜粋
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小百合が裕に宛てた手紙より。
…藤井くんのことを、ユウくんはまだ背負っていますか?
昔ユウくんに言われた「荷物を下ろせ」という言葉を、最近よく思い出します。
最近思うようになりました。
…下ろすことなんてできない。わたしたちにできるのは、背中をじょうぶにして、足腰をきたえることだけかもしれません。
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結婚してからも、子供ができてからも、9月4日は、やっぱりわたしの誕生日ではなく藤井くんの命日です。
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ユウくんもお元気で。
いつかどこかで、お互いにたくましくなった背中でまた会えたらいいですね。
それから、亡くなった俊介の父親がユウに言うセリフ
「おまえらにとっては、たまたま同じクラスになっただけのどうでもいい存在でも、親にとっては…すべてなんだよ、取り替えが利かないんだよ、俊介の代わりはどこにもいないんだよ、その俊介を…おまえらは見殺しにしたんだ…」
自ら命を絶った本人も相当に辛かった。
そして残された人たちの人生も様々な想いを背負っていく。
物語のラスト。
重松さんらしい爽やかな締めくくりをしてくれています。
だから、どうぞ怖がらずに手にとってぜひとも読んでください。