こんにちは、PPBEですびっくりマーク

京都は朝夕が少し肌寒くなってきました。秋の予感をひしひしと感じています紅葉

 

さて、本日紹介いたします曲は、武満徹 作曲の、【デイ・シグナル —シグナルズ・フロム・ヘヴンⅠ―】です。

 

 この曲は、武満徹の『シグナルズ・フロム・ヘヴン』の第1曲であり、1987年に今村能指揮、レ・シュヴァリエ・ブラス・アンサンブルにより初演されました。編成は、グループⅠ:Trp×3, Trb×3、グループⅡ:Picc.Trp, Trp, Hrn×2, Trb, Tubとなっています。本演奏会では、2部の最初の曲として演奏させていただきます。

 

 

 さて、皆さんは武満徹を知っていますか?武満徹は戦後日本を代表する作曲家であり、今でも世界中で彼の作曲した曲が頻繁に演奏されています。オーケストラのみならず、邦楽や合唱曲、ピアノ曲など様々なジャンルに名曲を残しており、あのレナード・バーンスタインが涙したと伝えられている「ノヴェンバー・ステップス」や、最晩年に作曲された曲として知られるフルート独奏曲「エア」などが知られています。また、武満の名前を冠した、「武満徹作曲賞」という権威のあるコンクールがあり、創造的な作品を生み出す若い作曲者を世に送り出しています。

 

 

ノヴェンバー・ステップス(小澤征爾&サイトウ・キネン・オーケストラ)

 

 

エア (エマニュエル・パユ)

 

 また、大の映画好きでもある武満は、映画やテレビドラマのメインテーマなどの映画音楽・劇伴も多数作曲しました。クラシックの分野では前衛的な手法が目立ちますが、実用音楽の分野ではその音楽の魅力を率直に表現したものが多いという印象です。大河ドラマ「源義経」のテーマ曲や、連続ラジオドラマ「ガン・キング」の主題歌として作曲され、後に『混声合唱のための「うた」』に組み込まれた「小さな空」などがおすすめの曲ですチョキ

 

 

大河ドラマ「源義経」オープニング

 

 

小さな空(山田和樹&東京混声合唱団)

👆ベタですがとってもきれいで大好きな曲です上三角

 

 

 今回の演奏会で取り上げる曲は、武満が残した数少ない金管楽器のための曲のひとつです。「シグナルズ・フロム・ヘヴン」という題名が示すように、この曲は平和で幸福な感情に満たされており、親しい友人たちへの挨拶としての信号である、とプログラムノートに書かれています。実際に楽譜にも"Joyfully"という指示記号が書いてあります(私は初めて見ましたダッシュ)。演奏時間はおよそ2分半という短い曲ですが、前回紹介した「ラ・ペリのファンファーレ」とはまた違った金管楽器の魅力にあふれている曲です。

 

 

↑武満徹(『藝術新潮』新潮社, 1961年7月号より)

 

 

 

 さて、皆さんはこの曲の編成を覚えていますでしょうか?あまり見たことのない編成ではなかったでしょうか?この曲は全体としては金管12重奏となるのですが、その12個の金管楽器が2群に分かれており、6重奏のふたつのグループが交差して音楽を展開していくという構成になっています。いわゆるアンティフォナル(antiphonal)な構成になっており、一般的に金管アンサンブルに見られるモノラル的な響きとは違いステレオ的な響きを楽しむことができる作品となっています。

 

 

 このような複数の演奏群をもちいた音楽というのは、珍しいように見えて実は歴史の中で多く実践されてきました。例えばキリスト教では、礼拝式の中で合唱を2群に分けて交互に歌いあう形式の「アンティフォナ・交唱」という形式が存在しており、一説には初期キリスト教の伝統につながるとも言われます。交唱は典礼の中で生まれた形式であり、本演奏会で取り上げる「デイ・シグナル」とは単純な比較はできませんが、空間の中で広がる音を用いて何かを表現するという行為ははるか昔と現在で共通していると言えるでしょう。

 

 

↑聖歌で見られるAntiphonalな例

 

 また、器楽の観点から見ると、ルネサンスからバロックの過渡期に活躍したヴェネツィア楽派の頂点、ジョヴァンニ・ガブリエーリが挙げられるでしょう。ガブリエーリは様々な器楽合奏のための曲を遺しており、強弱記号(pやfなど!)を用いた最初期の作品を遺したことでも有名です。彼の曲は金管アンサンブルにも多数編曲されており、「第7旋法による8声のカンツォン第1番」や「ピアノとフォルテのソナタ」などが今でもアンサンブルコンテストなどで演奏され続けています。上記の2曲にも共通しているのですが、彼の曲の中には2つの群に分かれて音楽を進行する形式のものが多数あります。当時、彼はサン・マルコ大聖堂の首席作曲家としての地位を獲得していました。サン・マルコ大聖堂には向かい合う聖歌隊用の席が設けられており、この建築がもたらすある種のステレオ的な効果を活かすために、2つの群に分かれて交互に演奏するようなスタイルが発展したともされています。建築のみが彼の音楽に影響を与えたとは言えませんが、サン・マルコ大聖堂という建築物が音楽の可能性を広げたことは間違いありません。

 

 

↑教会で演奏されるガブリエーリの楽曲(解説が入っています、いい動画が見つかりませんでした、ごめんなさいアセアセ)

 

 

↑金管アンサンブルに編曲された「ピアノとフォルテのソナタ」(PJBEの演奏)

 

 

 このように、複数の演奏群を用いた音楽は、多様な文化や歴史的な要因の中で様々な実践がなされており、とても興味深い音響効果を生み出してきました。ながながと書きましたが、今回の演奏会で取り上げる「デイ・シグナル —シグナルズ・フロム・ヘヴンⅠ―」も、その編成によりとても面白い演奏効果が生まれています。グループⅠはトランペットとトロンボーンが3本ずつの計6人の奏者が属しています。この楽器の編成からわかるように、いわゆる直管系と言われる楽器のみから構成されており、グループⅠから生まれる音は均質で整った印象を受けます。一方、グループⅡはピッコロトランペットとトランペット、ホルン2本とトロンボーン、テューバの計6人の奏者が属しています。楽器の本数は同じですが、こちらのグループには様々な種類の楽器が属しており、グループⅡから生まれる音はより複雑に絡み合った印象を受けます。私が考えるこの曲の魅力は、異なった特性を持つ2つのグループから生まれる音がアンティフォナルに響きあい、空間に立ち上っては消えていく、という音響的なおもしろさです。

 

 

↑デイ・シグナルの音源

 

 演奏機会が少ない本曲ですが、他の金管アンサンブルの楽曲にあまり見られない音響的なおもしろさをご来場くださるお客様に体験していただき、新たな金管楽器の魅力を伝えたい、という思いから選曲いたしました。作曲者である武満徹は今年が没後30年にあたります。日本が誇る大作曲家が遺した金管楽器の新たな可能性に迫る本作を、奏者自身が楽しみながら演奏したいと思います。他では体験できない音響をぜひ聴きにお越しくださいびっくりマーク

 

 

 

演奏会詳細↓

poco a poco Brass Ensemble (PPBE) 第1回演奏会

 

📅2027年3月7日(日)

📍京都府立府民ホールアルティ

🕑13:00開場、13:30開演予定

 

演奏曲目↓

 

<第1部>

1. 「ラ・ペリ」のファンファーレ / Paul Dukas


2. Concerto a 4 / G.P.Telemann, 編曲:Alen Lumsden


3. Suite Impromptu / André Lafosse


4. French Suite / Alfred Reed


5. 金管六重奏曲 / Oskar Böhme

 

 

<第2部>
6. Day Signal - Signals from Heaven I - / 武満徹

7. Suite for Five Trumpets / Ronald Lo Presti

8. Consortium / John Cheetham

9. 組曲「ネオン+」 / 山根明季子

10. 三匹の猫, もう一匹の猫 / Chris Hazell